ベガス
2008/12/7
Vegas: Based on a True Story
2008年,アメリカ,102分
- 監督
- アミール・ナデリ
- 脚本
- アミール・ナデリ
- スーザン・ブレナン
- ブリス・エスポジト
- チャーリー・レイク・キートン
- 撮影
- クリス・エドワーズ
- 出演
- マーク・グリーンフィールド
- ナンシー・ラ・スカラ
- ザック・トーマス
- ウォルト・ターナー
- アレクシス・ハート
ラスベガス郊外に暮らす一家、父エディはタイヤ整備工場で働いているが、カジノ通いがやめられない。母のトレイシーはウェイトレスをしながら家の庭を整えている。その家に以前そこに住んでいたという男が訪ねてくる。息子のミッチはすぐにこの男になつき、客人としてもてなすが、男は家を売ってくれと言い出す…
イランで活躍していたアミール・ナデリがアメリカに渡って撮った第5作。
ギャンブルの街、ラスベガス。
しかし、砂漠に建てられた街であるラスベガスは、その豪華なカジノが林立する一角以外は完全なる荒野で、そこにその街で働く人々が転々と暮らす。
この物語の主人公となる一家はそんな砂漠の中の素朴な一軒家に住む。その風景は非常に印象的で、何もさえぎるものがないなかで差し込む日差しも効果的だ。
父親のニックのちょっとしたカジノ通いと息子のミッチの反抗期の兆しという問題はあるが、母親のトレイシーが何とかコントロールしてなんとか暮らしている。
その家に、ブライアンという青年が訪ねてくる。この青年は家を買い戻したいと言って高額を提示するが、トレイシーがそれを拒否する。怪しく思ったニックはブライアンが彼が言うような人間ではないと突き止めるが、ブライアンは今度はニックの家の庭に有名なギャングの埋蔵金が埋まっていると言い出すのだ。
そのときからニックはその埋蔵金に取り付かれたようになる。埋蔵金というのはある意味ではギャンブルと同じだ。時間と土地を犠牲にして手に入るかどうか定かではない大金を夢見る。ニックが埋蔵金に取り付かれるのは彼のギャンブル癖の延長だということだ。
そして、そのギャンブル癖というものの根幹にはある種の行き詰まり感がある。行き詰まった人生を別物に変えてくれる天啓にすがる気持ち、大金が手に入ればそれで人生が変わるという心理が人をギャンブルにはまらせる。それは弱者が這い上がれないという社会システムが生み出す病巣でもある。
彼らはごくごく普通の家族であるが、ラスベガスという土地の特殊性は知らず知らず彼らを蝕む。トレイシーも賭け事とも無縁見えつつ、ダイナーで客の行動を対象に小さな賭けをする。その彼女も一度はギャンブルにはまっていたということが明らかにされる。まだ少年のミッチはさすがにギャンブルとは無縁だが、彼が父親に強調して庭を掘り返すことを主張するのは、ラスベガスで育った少年ならではなのかも知れない。
結局彼らを破滅に陥れるのは、ギャンブルの街に暮らす者特有の感覚の麻痺なのである。些細なギャンブルをギャンブルとも思わないその感覚が彼らを罠に陥れる。
トレイシーは家庭によってその罠から家族を守ろうとしている。そしてそれを象徴するものとして前半ずっと風鈴の音が聞こえている。その音は風が通る家の居心地のよさ、家庭の安らぎを象徴している。しかし、後半になるとその音は他の音によってかき消される。
この作品はさまざまな要素をパズルのように組み合わせ、言葉になる直前のイメージを次々と想起させる。特に少年ミッチの心に浮かぶさまざまな感情、それがひしひしと伝わってくるのだ。何か明確なメッセージがあるわけではない。しかし伝わってくることはいろいろに思い浮かぶのだ。