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ブロークン・イングリッシュ

★★★★-

2008/12/12
Broken English
2007年,アメリカ=フランス=日本,98分

監督
ゾエ・カサヴェテス
脚本
ゾエ・カサヴェテス
撮影
ジョン・ピロッツィ
音楽
スクラッチ・マッシブ
出演
パーカー・ポージー
メルヴィル・プポー
ドレア・デ・マッテオ
ジャスティン・セロー
ピーター・ボグダノヴィッチ
ジーナ・ローランズ
preview
 30代のホテルのVIP係ノラ・ワイルダーは母親からも結婚をせっつかれ、自身も愛する人に出会いたいと願っていたが男運がなく、出会う男は問題がある男ばかり。そんなノラが気の進まぬまま行った同僚のさえないパーティでフランス人のジュリアンと出会う。
  ジョン・カサヴェテスの娘ゾエ・カサヴェテスの長編デビュー作。第2のソフィア・コッポラとも言われる才能がはじけるデビュー作だ。
review

 ストーリーだけを追っていくと至極まっとうなというよりはまったく陳腐なラブ・ストーリーだ。愛を求めながら愛することができる男性に出会えない30代の女性が異邦人と出会い、第一印象を裏切られて恋に落ち、一旦は離れ離れになるが相手のことが忘れられなくて悶々とする。映画でも、小説でも、TVドラマでも、見たことがあるようなストーリーだ。

 そんな陳腐なストーリー展開を採用しながら、この作品はその主人公の心理を深くえぐっていくことで、そのような物語が求められる現代社会の病理を明らかにする。

 少々ネタばれになるが、この作品で最も重要な瞬間はジュリアンに一緒にパリに行こうといわれたノラがそれを断る瞬間だ。愛し合うことができる相手を求め続けて、ついにその相手を見つけながら、いざその相手に「一緒に行こう」と言われるとしり込みしてしまう。そこにノラという主人公に投影された現代人と現代社会の病理がある。

 結局のところノラは30代半ばになるまでに築いてきた自分のキャリアや人間関係やプライドや価値観というものを鎧のようにまとって社会の中にいる。彼女の「愛し合える人に出会いたい」という願いは本当だし、恋人に求める理想が高いわけでは決してない。しかし、それでも見つからないのは、彼女がその鎧を脱ぐ準備が出来ていないからだ。自分の中で作り上げた“常識”にとらわれて新たな人生を歩むための一歩を踏み出せない。それは彼女だけに問題があるのではなく、そのような鎧をまとわなければ生きられないという現代社会にも原因があるのだ。

 彼女がジュリアンとデートしているときに、知り合いの男性に偶然出会うというシーンがある。ここでノラがパニックに陥るのは、ジュリアンと二人きりでいることで鎧を脱ごうとしいた瞬間に、鎧で身を固めて会うべき相手に不意に出会ってしまったからだ。

 彼女の病理は自分の中で何かが壊れようとすることに対して過剰に反応してしまうことなのかもしれない。そしてそれは不意に訪れる敵意に対して常に身構えていなければならない社会においては避けられないものではないか。

 この作品はそのような現代人の精神構造を見事に描く。安全だと認められた空間、安全だと考えられる仲間との間でだけ人々は鎧を脱ぐ。それが新たな人との出会いを困難にしている。そのような状況を実に巧みに描いたのだ。

 そして、その状況を支える舞台が実にリアルだ。ドレア・デ・マッテオ演じる親友との関係、台所にシンクの前に“No Hunting”と大きく書いたりする心理、ジュリアンと出会ったさえないパーティーに集う人たちのなんとも中途半端な感じ、それらのさりげないリアリティが作品と観客をぐっと近づける。

 そして、ジーナ・ローランズ演じた母親も、パリで出会う紳士も、いい味出している。

 これはゾエ・カサヴェテスが父親から受け継いだ監督としての才能というよりは、彼女が育った環境のインディペンデントの精神がうまく作用した結果ではないかと思う。固定観念にとらわれず、自由な発想で構成した結果がこのようにうまく行ったのだ。ジュリアンを演じたメルヴィル・プポーはロメールの『夏物語』であの優柔不断な男の子だというから驚きだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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