ミスター・ロンリー
2009/1/10
Mister Lonely
2007年,イギリス=フランス,111分
- 監督
- ハーモニー・コリン
- 脚本
- ハーモニー・コリン
- アヴィ・コーリン
- 撮影
- マルセル・ザイスキンド
- 音楽
- ジェイソン・スペースマン
- ザ・サン・シティ・ガールズ
- 出演
- ディエゴ・ルナ
- サマンサ・モートン
- ドニ・ラヴァン
- ジェームズ・フォックス
- ヴェルナー・ヘルツォーク
- レオス・カラックス
パリの路上でマイケル・ジャクソンの物まねをし、私生活でもまねをし続ける青年。その青年が老人ホームでマリリン・モンローのまねをする美女と出会う。その美女はスコットランドの城で物まね芸人たちと共同生活をしているという。早速マイケルも彼女についてその城に向かう。
ハーモニー・コリン8年ぶりの監督第3作。ふわふわと漂うような感覚が独特。
ファーストシーンはマイケル・ジャクソン(らしき人)がミニバイクに乗っていて、後ろにはご丁寧にサルのぬいぐるみまで引き連れている。このマイケル・ジャクソンは自分自身に違和感を覚え、別の人間に変わりたいと思った青年。メキシコ人俳優ディエゴ・ルナが演じるこの青年がマイケル・ジャクソンに似ているかというとそうでもない。しかし彼は1日24時間ずっとマイケルとして生きる。でも自分がマイケルだと思い込んでいるというわけではなく、マイケルになることでようやく生きられるという感じだ。
そのマイケルが老人ホームに行く。その仕事も彼はいやいやというよりは楽しそうにやり、そこでマリリン・モンローと出会う。彼女もただ物まねをするというのではなく、常にマリリン・モンローのまねをして暮らしているのだ。そして彼女からそんな人たちばかりが暮らすスコットランドの城の話を聞き、そこに行く。
彼らの暮らしはどこか幻のようだ。それはもちろん、彼らが自分自身ではない誰かを常に演じ続けていて、現実との間にワン・クッション置いているからだ。彼らの生活自体は魚を獲ったり、畑を耕したり、家畜を育てたりという非常に現実的なものなのだけれど、どこか夢のような雰囲気が漂い、宙に浮いているかのように見えるのだ。
この映画にはもうひとつのストーリーがある。それはアフリカかどこかの神父とシスターたちの話。彼らは孤児院を経営し、貧しい地域に飛行機で食料を投下しに行く。しかし、その食料投下の途中、シスターのひとりが飛行機から落ちてしまうのだ。しかしそのシスターは奇跡的に生き延び、他のシスターたちも空を飛ぶ奇跡のシスターになろうとするのだ。
この宙に浮く、空を飛ぶという感覚、これがこの作品にあまねく漂う感覚である。ふわふわとして心地よいのだけれど、不安でもある。現実から距離を置きながら生きる。それを奇跡と呼ぶのか、逃避と呼ぶのか。
しかししかし、彼らもやはり現実とかかわらねばならない。ハーモニー・コリンは最後に現実からのしっぺ返しを用意する。それは意味の判然としないしっぺ返しで、さまざまに捉えられると思う。皮肉でもあり、愛でもあり、希望でもあり、絶望でもある。
誰かのまねをしたり、奇跡にすがろうとするというのは、生きがたい現実を生き抜くためのひとつの方策である。しかしそのような生き方をどう考えればいいのか。今の世の中をいきがたいと考えている人には何かが残る物語ではないか。彼らに共感するにしても、違和感を感じるにしても。