ラブ・ファクトリー
2009/1/22
The One and Only
2002年,イギリス=フランス,91分
- 監督
- サイモン・セラン・ジョーンズ
- 脚本
- スザンネ・ビア
- ピーター・フラナリー
- 撮影
- レミ・アデファラシン
- 音楽
- ガブリエル・ヤーレ
- 出演
- ジャスティン・ワデル
- リチャード・ロクスバーグ
- ジョナサン・ケイク
- パッツィ・ケンジット
- マイケル・ホジソン
イギリスの田舎町でキッチンを売るニールは恋人のジェニーと養子をもらおうとしていた。地元のサッカーチームのスター、アンドレアの妻スティービーは夫の求めに従って子供を作ることに同意する。ニールのところに養子が来ることに決まるが、実はニールはジェニーと分かれようと考えており、スティービーは妊娠するが、直後に夫の浮気が判明する。
なんだか不思議なムードが漂うイギリス発のラブ・コメディ。デンマークの新鋭スザンネ・ビアが脚本と製作で参加。
子供が出来たら自由がなくなってしまうと考えて夫を騙して子供を作らないようにしてきたスティービーが夫のアンドレアの説得に負けて子供を作ることを了承する。
他方、無精子症のニールはパートナーのジェニーに無理やり説得させられて養子をもらうことにする。
しかし、妊娠直後にアンドレアの浮気が発覚、ニールはジェニーと別れようとしていた。そしてそのふたりが出会う…
と書くと、ごくごく普通の物語のように見える。しかしこの映画に登場する人たちはみんなどこかおかしい。具体的にどこがどうおかしいというわけではないんだけれど、いわゆるステレオタイプ化されたキャラクターというのはいなくて、みんな少しずつズレているのだ。
たとえばニールはキッチンの設置工事を仕事にしているのだが、何よりもキッチンが好き。なんでもキッチンにたとえてしまい、朝食の席でもキッチンのカタログを読んでいる。
エピソードもなんだか変わっている。ニールの親友のスタンとスティービーの親友のステラがひょんなことから出会うのだが、ステラは汚れ放題のスタンの部屋の台所をこっそりと片付け、そのことでスタンに怖がられてしまう。このエピソードはいったい何なのか。
この作品は“キッチン”がすべての鍵になっているようだ。ジェニーはニールがキッチンの話をするのを「バカに見えるから」といって嫌う。ニールとスティービーはキッチンを設置するために出会い、キッチンのない家がふたりを結びつける。
果たしてキッチンとは何の隠喩なのか、それともただ面白いからことさらにキッチンを登場させているだけなのか。少なくともキッチンというものが温かい家庭と結びついていることは間違いがない。ジェニーとニールのふたりの食事がシーザーサラダというキッチンを使わないコールドミールだというのはふたりの関係が冷え切っていることを示唆している。
そう考えると、ステラがスタンのインスタント食品のごみだらけのキッチンを片付けたというのは、彼女が無意識に彼との家庭を思い描いたからなのかもしれない。スティービーがニールがキッチンを設置するのを拒否したのは、彼を拒否することを意味したのかもしれない。
ちょっとおかしな心優しい人たちがキッチンの周りで繰り広げるラブ・コメディはなかなかのもの。