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キャラメル

★★★.5-

2009/1/28
Caramel
2007年,レバノン=フランス,96分

監督
 ナディーン・ラバキー
脚本
ナディーン・ラバキー
撮影
イヴ・セナウイ
音楽
ハレド・ムザンナル
出演
ナディーン・ラバキー
ヤスミン・アル=マスリー
ジョアンナ・ムカルゼル
ジゼル・アウワード
シハーム・ハッダード
preview
 ベイルートのヘアサロンの店主ラヤールは30歳で独身、妻ある男性との恋に悩んでいる。ヘア担当のニスリンは結婚を間近にある悩みに頭を悩ませていた。シャンプー担当のリマはボーイッシュでレズビアンの傾向がある。そこにさらに女優を目指す中年の常連客や向かいに住む老女ローズなどベイルートに暮らすさまざまな女性が登場する群像劇。
 監督・主演を努めるナディーヌ・ラバキーはミュージック・ビデオやコマーシャル・フィルムの監督をしてきたレバノン期待の若手女性監督。ちなみに『キャラメル』という題名は、脱毛にキャラメルを使うところから来ている。
review

 レバノン映画なんてはっきり言ってまったくなじみがないのだが、この作品はすごく普通でいい。エステサロンで働く3人の女性と常連の客、そして向かいの仕立て屋という5人の女性たちはそれぞれに少しの重荷を抱えながら日々を過ごす。圧倒的に幸せというわけではないけれどすごく不幸というわけでもない。

 エステサロンに集う人々は互いを頼ってべったりというわけではないが、嬉しいこともつらいことも共有することの良さを知っている。当たり前の日々が当たり前に過ぎてゆくということ、それは何もない虚しい日々とは違う。人に幸せを与え、相手の知らぬうちに傷つけられ、あるいは傷つけてしまう。何もないように見えて、常に小さな喜びや悲しみというのは存在する。それが日常というものだ。

 別に日常のささやかな喜びを噛み締めろとか、感激しろと言っているわけではない。自分がそういう経験をするのが楽しいのと同様に、他人のそういう経験を見るのも楽しいのだということをこの映画はわからせてくれるのだ。

 これが日常性のドラマのよさである。ドラマというのは多くの場合、大きな物語を求める。悲恋だとか、殺人だとか、エイリアンだとか、離婚だとか、それらは一つのテーマによって物語を組み立てることができる大きな物語である。それが映画の題材になりやすいのは、大きな物語というのが日常にはめったにないことであり、また私たちが映画に非日常性を求めるからだ。

 しかし、小さな物語というのもある。日常のちょっとしたエピソード、新しいともだちが出来たとか、仔犬を拾ったとか、晩御飯がおいしかっただとか、そういった私たちも日常経験するような些細なことが小さな物語である。そしてその小さな物語は2時間の映画にするには足りないが、一つの物語であることに違いはない。それらの物語は私たちが日常の中で経験し、それがどのような感覚や心情を呼び覚ますかを知っている物語だ。だからそれが画面で演じられると私たちは自分のことのように登場人物の感覚や心情を推し量ることができる。それは非日常ではないけれど別の日常の経験であり、ある意味では自分自身の陳腐な日常から離れることである。

 映画というのは劇場という空間で、日常からはなれることに最大の意味があると私は思う。そして、日常を離れて行く先が待った区別の世界であっても、現実とほとんど変わらない別の日常であっても、それはかまわないと思うのだ。

 結局、何が言いたいのかといえば、こういう小さな物語だけで映画を作っても尾も知り物は出来るということだ。しかし実は誰もが興味を持つような大きな物語で作るよりも、こういった小さな物語を寄せ集めて作るほうが映画作りは難しい。それが出来る映画の作り手というのは、映画や物語の何たるかがわかっているのだと思う。

 だから、レバノン映画というこれまでほとんど日本には入ってこなかった国の映画で、しかも若い女性の監督がこれを作ったというのはすばらしいことだ。ぜひ今後も頑張って欲しい。

Database参照
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国別・年順: レバノン

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