ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう
2009/2/5
Every Thing You Always Wanted to Know About Sex But
Were Afraid to Ask
1972年,アメリカ,88分
- 監督
- ウディ・アレン
- 脚本
- ウディ・アレン
- 撮影
- デヴィッド・M・ウォルシュ
- 音楽
- マンデル・ロウ
- 出演
- ウディ・アレン
- ジョン・キャラダイン
- ジーン・ワイルダー
- ルイーズ・ラサー
“媚薬に効果ありや?”“ソドミーとは何か?”などセックスにまつわる短編7本で構成されたオムニバス。
“媚薬に効果ありや?”は中世を舞台にした時代劇のパロディ、ウディ・アレンは道化役で登場。“ソドミーとは何か?”は羊を好きになってしまった羊飼いの話。など下らないコメディが盛りだくさん。ウディ・アレンの真髄の一つといえそうだ。
ウディ・アレンというのはその容貌から非常にイメージしやすい人物である。しかし彼の映画はどんな映画かといわれると意外にとらえどころがない。彼自身が出演しているか否かで異なってくるし、コメディもあればシリアスなドラマもあり、豪華スターが出演する群像劇もある。果たしてその中のどれが彼の真実を伝えるノか、それは決してわからない。
しかしジョーク作家などをしてきた彼の本質の一つが“笑い”にあることは間違いない。そして、若い女優と恋愛関係になることが多い彼が“性愛”に重きを置いていることも想像に難くない。となると、その“笑い”と“性愛”が結びついた“艶笑”はやはり彼のホームグラウンドなのではないか。
この作品はまさにその彼のホームグラウンドセックスと笑いの世界である。短編が7本あるが私が特にいいと思ったのは2本目の“ソドミーと何か?”6本目の“変態とは何か?”7本目の“射精のメカニズム”だった。
“ソドミーとは何か?”は羊と愛人関係になってしまった羊飼いが「最近冷たくされている」と内科医のところにやってくる。内科医は戸惑うばかりだが、その羊をひと目見て惚れてしまい… という話。本当にバカバカしいのだが、そのバカバカしい話を決して茶化すことなく、その異常さを周囲がどうこう言うこともなく展開していくところが面白い。羊が何かの象徴だとか何とか言うつもりはないが、セックス/性愛というものはそこが知れないものなのかもしれない。聞こえてくるウディ・アレン自身の言葉は字幕よりも相当どぎつく、そのえげつなさこそが笑いの核心だと思った。
“変態とは何か?”は登場した人がどんな変態かを当てるクイズ番組という設定。古くなったVTRの感じを出すこだわりが非常によく、番組の前のCMも凝っている。これは内容どうこうよりも映像のつくりが非常にうまいと感じさせる作品だ。ウディ・アレンというと脚本が注目されるが、映像作りにおいても相当のこだわりがあることがここからわかる。
“射精のメカニズム”は人間の体を一つの機械ととらえて、脳や筋肉を人が動かしているという設定の話。その体の持ち主が女性とセックスに持ち込み、射精にいたることができるかということを体の中の視点から描いている。これはとにかくくだらない。ウディ・アレン自身は精子の中の一つの役で登場する。とにかくくだらないのだが、なんだかちょっと納得してもしまうのだ。
1本目の“媚薬に効果ありや?”でウディ・アレンは道化の役で登場するのだが、この作品全体を通してウディ・アレンとは“道化”なのだという印象がある。道化というのは格式ばったものを卑賤なものに貶めながらおどけて笑いを誘う。彼がここで描こうとしているのは“愛”や“恋愛”という格式ばったものを“セックス”という卑近なものに貶めて笑いを誘うことだ。
この“道化”という姿勢は彼の作品の多くに現れる特性であるとも思う。ウディ・アレンの作品はなんだか小難しいことを言うような印象があるけれど、その小難しいことというのは大体その会話の相手とセックスしたいなんていう卑近な目的につながっている。そしてただそれを描くだけではいやらしくなってしまうところを笑いにつなげることで回避しているのだ。
時には本当にわけのわからない作品を撮ることもあるウディ・アレンだが、それは彼の目論見が外れることもあるということだ。それはこの短編7本の中にも表れている。