少年メリケンサック
2009/2/12
2008年,日本,109分
- 監督
- 宮藤官九郎
- 脚本
- 宮藤官九郎
- 撮影
- 田中一成
- 音楽
- 向井秀徳
- 出演
- 宮崎あおい
- 佐藤浩市
- 木村祐一
- 田口トモロヲ
- 三宅弘城
- ピエール滝
- ユースケ・サンタマリア
レコードレーベルの契約社員カンナはハチャメチャなパンクバンドの動画を見つけて社長のところへ。社長は実は元パンク少年でカンナにそのバンド“少年メリケンサック”と契約するように言う。イケメンのベースアキオと連絡を取ることに成功したカンナは意気揚々と出かけるが、そこで出会ったのはなんとおっさん、カンナが見つけた映像は実は25年前のものだった…
宮藤官九郎脚本・監督によるパンク・コメディ・ドラマ。ばかばかしい笑いが盛りだくさんでやはり面白い。
宮藤官九郎といえば“グループ魂”、グループ魂がパンクバンドといえるかどうかは微妙だが、グループの中心は破壊=阿部サダヲと暴動=宮藤官九郎で、スタイルはパンクそのものだ。バンドの内容はともかく、クドカンがパンク好きなのは間違いない。映画の中でも「パンクとは何ぞや」という問いが繰り返されるように、クドカンはおそらくパンクな大人に憧れを抱いているのだろう。
そんな(多分)大好きなパンクを題材に宮藤官九郎がはじける。彼の魅力はなんと言ってもくだらない笑いである。主人公を若いOLと下品な中年男たちにしたというのも、下品な笑いをどんどんと畳み掛けられるからに違いない。佐藤浩市が「ちんこでかいのか」と延々と繰り返すくだらなさ。車の中でこかれる中年の屁の臭さ、その下品な笑いがやはりこの作品の面白さであることは間違いない。
そしてその下品さに辟易していた宮崎アオイ演じるカンナがよりによって車中で屁をこいた罰金として集めた500円玉を見て彼らへの愛情に気づいてしまうというのがまたなんともくだらない。けれどもなんだか暖かくもあるのだ。
この圧倒的に笑いのほうによりながらも、どこかでしっかりとドラマとしても成り立たせていく。それがクドカンのすごさなのだろう。でも、そんなまとまり方が彼自身は決してパンクにはなれない要因でもあるのだろう。パンクに憧れ“暴動”などと名乗っていながら自分自身は決して破壊的な行動は取れない、そんなクドカンの想いがこの作品のあちこちに見られるような気がする。
物語の展開の仕方の細部にはかなり穴も見えるけれど、そこは勢いでカバーしているし、役者たちの妙な説得力も有効だと思う。佐藤浩市や木村祐一はまあそのまんまという感じだけれど、宮崎あおいははじけた役を見事に演じ、女優魂を見せている。
私が一番よかったと思ったのは田口トモロヲだ。かなり情けない役なのだけれど、真摯なところ、かわいげのあるところ、いやらしいところ、情けないところなどさまざまな要素を持っていて田口トモロヲはそれをうまく演じている。彼は色々な映画でいままでも色々な役を演じてきたわけだけれど、その経験と芸達者振りが生きたという感じだ。ひとつの形を持つのも役者としてのあり方だと思うが、彼のようにどのようにも染まれるというのもプロフェッショナルの証であるし、そのようなことができる役者が少ないだけに(本当はできる役者も多いのかもしれないが、売るためにはスターに色をつけたがるのが映画制作会社というものだ)、彼には感心した。
クドカンには芸達者たちを集める魅力がある。それは彼が役者をうまく扱う演出者であるということの証だろう。クドカンの脚本は奇想天外で面白いことも確かだが、彼の映画監督としての最大の魅力は役者をひきつける魅力にある。だから映像面での演出にとりたてて工夫がなくとも面白い映画ができるのだ。
それは舞台出身ということも影響しているように思うが、映画は決して舞台臭さを感じさせない。そのあたりが現代的でとてもいい。一時ブームになってどうなることかと思ったが、しっかりといい作品を作り続けているのはやはりすごい。