ひゃくはち
2009/2/23
2008年,日本,126分
- 監督
- 森義隆
- 原作
- 早見和真
- 脚本
- 森義隆
- 撮影
- 上野彰吾
- 出演
- 斎藤義樹
- 中村蒼
- 市川由衣
- 竹内力
- 光石研
- 桐谷健太
- 小松雅夫
強豪京浜高校野球部の青野雅人と小林ノブヒロ(ノブ)は2年生の県大会決勝をスタンドで迎えていた。最終年になってもベンチ入りすれすれのふたりは監督のサンダーに認めてもらおうとアイデアを絞るのだが…
早見和真の同名小説の映画化。監督はこれがデビュー作となる森義隆。青春映画ではあるが、うそ臭い青臭さがないリアルな秀作。
甲子園を目指す高校生なんてなんともべたな設定で、こんな映画が面白いものかと思ったのだけれど、主人公が甲子園を夢見るというよりはベンチ入りのメンバーに入ることを目標にしているという妙にリアルな設定に興味を引かれた。
主人公の雅人とノブが所属する京浜高校野球部は全国にも名が知れた名門、レギュラーはみんな推薦入学のエリート、そんな中でふたりは一般入試からベンチ入りを目指す。と言ってもとにかく練習練習のスポコンではないし、エリートのレギュラーといわゆるオチこぼれの主人公たちの間に軋轢があったりするというわけでもない。高校生なんてものは野球エリートだろうと何だろうとやっぱりバカで、タバコや酒に興味があったり、エロで頭がいっぱいだったりするわけだ。そのあたりをさらりとリアルに描いているところが非常に面白い。
野球部が飲酒をしただとか暴力を振るったなんだかんだといって処分を受けることがよくあるけれど、実際のところ酒もタバコもまったく経験がない品行方正な高校生なんてどれくらいいるのだろうか。映画の序盤で雅人は厳しく取り締まったら県の半分の高校が出場停止になってしまうという。実際まさにその通りなんじゃないかとなんとなく思う。高校野球の常識からすると本当は言ってはいけないことなんだろうけれど、誰だってそんなことわかっているのだ。
そしてそれは大人たちもまたしかり。教育者だ何だっていったて大人なんてのは欲望の塊で、みんな何らかの欲に駆られて高校野球に関わっていると言っていいはずだ。もちろんそれが本当に高校生の教育につながることも多いわけだけれど、誰も滅私奉公で監督をやったり記者をやったりするわけではない。それは当たり前のことだ。でも、高校野球という世界はそんな欲や汚い部分を見えないように装う。見る側もそのいわば偽装を知った上で汚い部分からあえて目をそむける。そんな暗黙の了解の上で成り立っているもののはずだ。この作品はそれをずばりと描く。そしてずばりと描くことで高校野球のイメージを壊すのではなくむしろ守っている。そこがこの映画の味噌だろう。
個人的には光石研が演じたお父さんが非常によかったと思う。高校生のしかも寮生活をしている息子との微妙な関係、その関係の中で自分の感情の出し入れを何とかコントロールして息子と接するそのあり方がすごくリアルで面白く、光石研もそれを表情や仕草でうまく演じていた。少年達だけでは構築できない深みが大人たちの存在によって生み出されたと感じた。
そして映像がいい。野球を題材にした映画なんて決まりきった映像しか出てこないものだけれど、この映画はなんと言っても試合の映像がほとんどない。なにせ主人公達が試合に出ないのだから試合の映像を使いようがないのだ。でも練習の映像には迫力がある。演技がうまいというわけではないのだけれど、ベンチ入りしたいと本当に願う主人公たちの気迫が映像に見事に乗っている。ティーバッティングをするときの表情をアップでとらえ、守備練習でただひたすらボールを追い掛け回す姿を不安定な画面で追う。その臨場感が素晴らしい。
監督はテレビマンユニオン所属、良質なドキュメンタリーを作り続けると同時に、是枝裕和や西川美和の映画も制作している。だからコンセプトも構成も映像もしっかりしているのかと納得がいく。青春映画でありながら子供だましではないしっかりとした映画。