森の生活
2009/2/27
You am I
2006年,リトアニア=ドイツ,90分
- 監督
- クリスティヨナス・ヴィルジューナス
- 脚本
- クリスティヨナス・ヴィルジューナス
- 撮影
- ヴァルダス・ナウジュス
- 出演
- アンドリウス・ビアロブジェスキ
- ユルガ・ユタイテ
- ソーリウス・バガリウナス
建築家のバロナスは仕事もなく、人間づきあいにも疲れ、森の中にツリーハウスを作って暮そうと考える。一人で家を完成させ、ようやく落ち着くが、そのとき近くで車の音が聞こえる。行って見ると、近くの別荘にやってきた若者達がパーティーを始めていた。
年に数本しか作られないというリトアニア映画の一本。リトアニアの自然を描いた寓話的な物語。
年寄りばかりの村からさらに奥地に入った主人公は元恋人のところに寄って、森へと入る。森で彼は木の上にいわゆるツリーハウスを作る。丸太で土台を作り、天井を作り、その間に透明なプラスティックの板を張る。水力発電の機械を川に沈め、わずかばかりの電力を得る。
孤独だけれど穏やかな生活が始まってしばらく、彼は車の音を聞きつける。それは近くの別荘に若者達がやってきた音。若者たちははしゃぎ、バロナスはその音にひきつけられるように家を出る。
物語はそのようなものだが、その前に救命ボートに乗った若者達が崖(島)を目指してボートを漕ぐというシーンがあり、バロナスが森の中で幻覚のようにアフリカ人の男を見るというエピソードがある。その救命ボートに乗った若者たちは別荘に来た若者達と同じで、それはあとでその若者の一人が作った物語の1シーンであることがわかる。
と、書いてみてもなんだかよくわからない物語だが、これはある種の寓話であると思う。主人公のバロナスは都会や人間を離れ森で暮らすことを決める。その彼が森の中で幻覚のようにアフリカ人を見るというのは納得がいく。そこにあるのは文明からの原始への回帰であるからだ。
しかしもちろんそれは完全な回帰ではない。彼は森で暮らすが電気を起こし、本を読み、ワインを飲む。そして文明と現代の象徴である若者たちのパーティーにふらふらと引き込まれてしまう。
もう一つの寓話は若者たちの一人が作り上げる物語だ。これは彼の恋心を物語化したものだが、それは彼が主人公に選んだベロニカの心理を表現してもいて、彼女がその物語を受け継ぐことになる。
これは森という自然の象徴を通して文明に疲れた人々に送る寓話である。現代文明があまりに過剰であるということ、それは誰もが感じている。しかし自給自足のような原始的な生活に戻るというのもまた無理な話だ。その中で森という自然に抱かれて不便だけれど穏やかな生活を送りたい。そんな風に考える人は結構多いかもしれない。
「そんな人たちに送る」というわけではないけれど、ほんわりとメッセージが漂ってくるようなそんな作品。映画としての出来はそんなによくはないけれど、雰囲気のよさとリトアニアという珍しさで見る価値はある作品になっていると思う。