タロットカード殺人事件
2009/5/11
Scoop
2006年,イギリス=アメリカ,95分
- 監督
- ウディ・アレン
- 脚本
- ウディ・アレン
- 撮影
- レミ・アデファラシン
- 出演
- スカーレット・ヨハンソン
- ヒュー・ジャックマン
- ウディ・アレン
- イアン・マクシェーン
- ロモーラ・ガライ
ジャーナリスト志望の大学生サンドラは友人を訪ねてロンドンにやってくる。そこで見に行ったマジック・ショーの舞台上で急死した新聞記者のストロンベルの幽霊に出会い、話題の“タロットカード殺人事件”の犯人がイケメンの貴族ピーター・ライモンであると教えられる。サンドラはマジシャンのシドニーを引き入れて調査に乗り出すのだが…
前作『マッチポイント』でスカーレット・ヨハンソンの才能にほれ込んだというウディ・アレンが彼女のために書いたというミステリー・コメディ。皮肉は鳴りを潜め軽妙なコメディに。
始まりは急死したという敏腕新聞記者の葬儀と、その記者が死神に連れられて船で死後の世界への旅をするシーン。その記者ジョーはその船の上で毒殺されたと主張するピーター・ライモンの秘書に出会う。その秘書から“タロットカード殺人事件”の犯人がピーター卿であると聞いたジョーは記者心を揺さぶられてしまう。その彼が幽霊となって記者志望の学生サンドラ(スカーレット・ヨハンソン)の前に現れるという展開になっていく。
この展開自体はまあお決まりという感じだが、その舞台装置の凝ったところはいかにもウディ・アレンだ。おそらく彼自身の欲求を満たすべく自分がさえない手品師を演じ、出来の悪い芸を披露してみせたりする。
ウディ・アレンはスカーレット・ヨハンソンの才能にほれ込んだというだけあって彼女を非常にうまく演出している。基本的にはさえない学生という役どころにしておきながら、実は美人であることを隠すこともなく、サンドラ自身もそれを認識しているという設定。そしてそのエロい肉体をちらりちらりと見せる辺りがウディ・アレンのいやらしいところだ。
ウディ・アレンがロリコン的視線を主演女優に注ぐのはいつものことだが、今回は違う側面も見せる。それはスカーレット・ヨハンソンのナチュラルさだ。特にウディ・アレンとの掛け合いのシーンが非常にいい。ウディ・アレンのトークは周囲から浮いてしまいどこか独白的になってしまうことが多いわけだが、スカーレット・ヨハンソンとの掛け合いのシーンではその特徴がすっかりなくなりスムーズな掛け合いになっている。これはアレンのぎこちなさとヨハンソンの自然さの絶妙なコンビネーションによるものだろう。彼女が不在のシーンではアレンのぎこちなさがいつも通り発揮されているところを見ればそれは明らかだ。
おそらく、ウディ・アレンはスカーレット・ヨハンソンの特長を見抜いて、それを生かすためにある程度自分を殺したのだろう。しかし、それによって彼らしからぬ新しい魅力がこの作品には生まれた。昔からのウディ・アレンのファンには非常に不満だろうけれど、こんな作品も撮れるんだという面白さがある。それに70年代、80年代あたりのアレンを見て辟易してしまったような人にも受け容れられるわかりやすさががある。
最後のオチもウディ・アレンらしい皮肉を効かせながらわかりやすくまとめている。齢70を過ぎたウディ・アレン、まだまだ精力的に活動するが、最後の“恋人”はスカーレット・ヨハンソンに決まったようだ。歳をとって丸くなったとは思わないが、彼女をおかずに分かりやすい作品を作ってファン層を広げるというのもなかなか面白い試みかもしれない。
ミステリーとしても一応成立しているが、ミステリー部分はあくまでスパイス。私はウディ・アレンらしからぬウディ・アレンのコメディ映画として秀作の域に入ると思うが、あまり賛同する人はいないだろうなぁ