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ベストセラー

スラムドッグ$ミリオネア

青春映画としては好作品だが、オリエンタリズム的視線には疑問。
★★★--

2009/5/15
Slumdog Millionaire
2008年,イギリス=アメリカ,120分

監督
ダニー・ボイル
原作
ヴィカス・スワラップ
脚本
サイモン・ボーフォイ
撮影
アンソニー・ドッド・マントル
音楽
A・R・ラーマン
出演
デヴ・パテル
マドゥル・ミッタル
フリーダ・ピント
アニル・カプール
イルファン・カーン
preview
 インドも人気のクイズ番組「クイズ$ミリオネア」で1000万ルピーまでたどり着いたスラム育ちの青年ジャマールはいんちきではないかと疑われ、警察に尋問を受ける。答えを知っていたことを警部に説明するため、その知識の素となったスラムでの生活を語り始める。
 クイズ番組で一攫千金の夢をつかむという物語を通して描く社会派青春映画。アカデミー賞で作品賞・監督賞・脚色賞・撮影賞・作曲賞などを受賞。
review
スラムドック$ミリオネア
(C)2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation

 ムンガイの広大なスラムで親を失い兄と二人だけで育った少年。彼らを食い物にしようとする大人たちの手から懸命に逃れ、生きるすべを身に着けてゆく。その中でジャマールは幼馴染のラティカと生き別れになり、彼女のみを案じるばかり危険なムンバイへと戻ってくる。

 この少年時代の孤児としての生活の描写は圧巻だ。冒頭の広大なスラムの迫力もそうだし、彼らがさまざまな危機に陥り、それをかいくぐって生きてゆくシーンのスリルもすごい。この辺りはさすがにスピード感ある個性的なアクション映画を撮ってきたダニー・ボイルらしいというところだろう。音楽というか音響もその迫力を増すのに効果的だった。

 そして物語のほうではスラム育ちながら自分というものをしっかり持つ立派な青年に育ったジャマールの純粋さは人をひきつけるし、その境遇に負けてマフィアの一員に成り下がってしまった兄サリームも理解できる。そして最終的に物語の中心となるのが幼馴染のジャマールとラティカの純愛であるというのも魅力的な要素だ。

 映画としては「クイズ$ミリオネア」が注目され、スラム出身の青年が大金をつかむという夢物語のように語られがちだが、実際はこれはあくまでも青春映画であり、純愛映画である。ジャマールが番組に出た目的が明らかになるにつれその要素が色濃くなり、見るものの共感も呼び起こしてゆく。

 それに対する司会者のキャラクター立ても秀逸。この司会者のキャラクターにはインド社会の複雑さや人間の欲深さがうまく表れている。

 というなかなかな青春映画なのだが、この映画の評価はそこまで。インドを舞台にし社会性を持たせた映画にしてはその青春映画として以上の意味が期待されると思うのだがその部分には答えられていない。

 この作品は確かにムンバイのスラムを描くことでインドの貧富の差、残存する身分制度、宗教問題などを描きはしたが、ただそれを描いただけなのだ。そんなことはいまさらいわれなくてもわかっているし、それを描く視線はそんな貧しい国々を上から見つめる観察者の視線でしかない。それは古くから西洋が東洋を見る視線、他者であり、エキゾチムの対象であり、教導する対象であるものを見る視線、つまりオリエンタリズム的視線である。

 インドの貧困という題材を使うなら、それを利用するのではなくそれが解決されるために何らかの貢献をするようではないとそれはオリエンタリズム的視線を免れてはいないということになってしまう。話によると現地の人々を出演させることやその他の方法によってインドの人々に支援を行ったということだが、それはあくまでも映画に付随する製作者による支援に過ぎない。それは作品には表れないものであって作品がどのような意味を持つかとは無関係だ。

 そんなごまかしではなく、ジャマールのような青年が生まれる背景を緻密に描いていかないとその問題の解決に寄与することにはならない。彼がクイズ番組で成功したのは運命かもしれないが、彼がスラムに生まれたのは運命ではない。彼が大金を手にするのが“運命”であると語ることで彼の悲惨な境遇もまた“運命”であるといわれてしまう危惧が常にある。ジャマールは“運命”によって救われたが彼以外の人々は野たれ死んで行く。だから私は「このことに一体何の意味があるのか」と聞きたくなってしまうのだ。彼が夢をつかんだからといって一体なんになるのかと。

 インドの貧困はもはや手のつけられない状態であり、クイズ番組で大金を手にするという億に一つの幸運でも夢見ない限り救われないという悲観的なメッセージが込められているのだとしたら、その貧困原因を作っている先進国のその急先鋒である映画業界人としてあるまじき愚行だ。あるいは、その貧困の原因がもとをたどればグローバル企業にあることを隠すためのカモフラージュなのか?

 この作品を見て「どんなに悲惨な境遇でも夢は必要だ」などということを言ってしまうようなら、グローバル企業の衆愚化にまんまとはまっているということだから気をつけたほうがいい。アカデミー賞はやっぱりアカデミー賞だったってことだね。悪い映画ではないが、あくまでも娯楽映画だ。

スラムドック$ミリオネア スラムドック$ミリオネア
(C)2008 Celador Films and Channel 4 Television Corporation
Database参照
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