ダ・ヴィンチ・コード
原作のすべてのミステリーと謎解きが台無しの残念な超大作。
2009/5/18
The Da Vinci Code
2006年,アメリカ,149分
- 監督
- ロン・ハワード
- 原作
- ダン・ブラウン
- 脚本
- アキヴァ・ゴールズマン
- 撮影
- サルヴァトーレ・トチノ
- 音楽
- ハンス・ジマー
- 出演
- トム・ハンクス
- オドレイ・トトゥ
- イアン・マッケラン
- ジャン・レノ
- ポール・ベタニー
パリで公演中の記号学者ロバート・ラングトンの元にフランス司法警察のファーシュ警部が訪れる。話によるとラングトンが会う予定だったルーブル美術館長のジャック・ソニエールが殺害され、奇妙な暗号を残したのだという。現場を訪れるとそこに暗号解読官のソフィー・ヌヴーが現れ…
ダン・ブラウンの世界的ベストセラーの映画化。2006年ラジー賞ワースト監督賞にノミネート。
物語は宗教的な歴史や記号に詳しい学者が殺人事件の謎を解明してゆくというものだが、そこに殺されたソニエールと殺した何者かが属する二つの秘密結社が絡んでくる。ソニエールが属していたと思われる修道会ではその幹部4人が殺され、殺したと思われる教会内の秘密組織では何らかの目的を果たすために秘密の会合がいまも開かれている。
原作を読んでしまっていると、この映画は原作の持つ謎解きのスリルや仮説に仮設を重ねて歴史を書き換えていくことの面白さというものをすべて奪ってしまっているように思える。まずそれを思ったのはラングトンがソニエールの遺体と対面する場面、肝心の遺体は短時間しか映されず、ラングトンはそれを見て「ダ・ヴィンチ」と「五芒星」について触れるだけだ。しかし、その死体こそが出発点であり、その目を背けたくなるような死体が送るメッセージをラングトンはもっと入念に検討してしかるべきだ。
そして、この現在の事件を読み解くにはそこに至るまでのキリスト教の歴史が重要なわけだが、その部分は基本的に会話や説明で行われる。事件の謎を解く過程で明らかになった事実ではなく、ラングトンやティービングが知っていることをただヌヴーに説明するという形で明らかにされるのだ。これではなかなか歴史と事件を実感を持って結びつけることができない。
まあ、上下間の長い小説を1本の映画にするのだから省かなければならないところはたくさんあるわけだが、それはこれまでも数多くの映画がやってきたことで、中には成功した作品もあるのだ。ロン・ハワードはそういった例から教訓を得ることなくいかにもハリウッド映画的なアクションを持ち込んでそれに時間を費やし、肝心の部分を削ってしまったように思える。
トム・ハンクスのロバート・ラングトンはイメージとは違ったがそんなに悪くはなかったし、役者は全体的に及第点だと思う。ハンス・ジマーもさすがに巨匠という感じで効果的な音楽を配していた。やはり脚本化と監督の演出が最大の問題。ロン・ハワードは能天気なアクションやコメディでは面白い作品を取るのだが、こういったいわゆる“本格的”な作品ではなかなか成功できないようだ。
まあ、原作を読んでいなければハリウッドのミステリー映画としてそれなりに楽しめるのかもしれないが、それでもこれだけの原作を使ってこれだけの大作として作った割には冴えないといわざるを得ないだろう。続編(原作の時間設定では前の事件になるが)として作られる『天使と悪魔』も果たしてどうなることか…