消されたヘッドライン
2009/5/21
State of Play
2009年,アメリカ=イギリス,127分
- 監督
- ケヴィン・マクドナルド
- 原作
- ポール・アボット
- 脚本
- マシュー・マイケル・カーナハン
- トニー・ギルロイ
- ビル・レイ
- 撮影
- ロドリゴ・プリエト
- 音楽
- アレックス・ヘッフェス
- 出演
- ラッセル・クロウ
- ベン・アフレック
- レイチェル・マクアダムス
- ヘレン・ミレン
- ジェイソン・ベイトマン
- ロビン・ライト・ペン
- ジェフ・ダニエルズ
国防総省の業務の民事委託についての公聴会の議長を務めるスティーヴン・コリンズの調査員ソニア・ベーカーが鉄道の駅で死亡する。直後にコリンズとソニアの不倫が発覚しスキャンダルに発展する。ワシントン・グローブ紙の記者カル・マカフリーは黒人少年とピザの配達員が殺された事件を追うが、コリンズと大学時代からの友人で、その夜コリンズの訪問を受け、ソニアが自殺したとは思えないことを聞かされる。
イギリスBBCの製作で人気を博したTVシリーズ『ステート・オブ・プレイ~陰謀の構図~』を劇場版にリメイク。複雑に入り組んだ“陰謀の構図”がスリリング。
(C)2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
この映画の面白さはプロットに尽きる。最後の最後までわからない陰謀の構図、複雑に絡み合った糸を一本解くたびに事件の様相は一変する。さまざまなスタート地点から出来事が始まり、それらが絡まりあい、最後に再びほぐれる。その展開のスリルがこの作品の最大の魅力である。
発端はコリンズ議員の主任調査員であるソニア・ベーカーの死。その死に際して涙を流したコリンズに不倫疑惑が降りかかる。そしてそのスキャンダルを一斉に報じるマスコミ、ワシントン・グローブ紙でも新米のウェブ版記者デラ・フライがスキャンダル記事を執筆する。ここからまずその死の謎とスキャンダルを一斉に騒ぎ立てるマスメディアへの疑念が浮かぶ。
一方、物語の主役で敏腕記者のカル・マカフリーは黒人少年とピザ配達員が殺された事件の取材を担当するが、彼はコリンズ議員の大学時代からの親友でもあり、その線からソニアが殺されたことが濃厚になってくる。しかも黒人少年の殺害とソニアの殺害がつながり、事件の謎が深まってゆく。またカルはコリンズの妻アンとも親密な関係にあり、そこにコリンズの不倫と彼と妻との関係が絡み合ってゆく。
そして、その殺人事件の謎を調査する中で浮かび上がってくるのがコリンズが議長を務める公聴会の議題である国防総省の業務の民事委託においてその委託を受ける予定のポイント・コープ社である。ここに巨大企業による殺人という最も大きな陰謀が現れる。
さらに、このポイント・コープ社はカルが勤めるワシントン・グローブ社を買収したメディア・コープ社の親会社であり、新しい経営陣は利益を求める。その経営陣と記者たちとの間で板ばさみとなるのが編集長のキャメロン・リン、ポイント・コープは果たして取材の続行をやめるよう求めてくるのか…
プロットの面白さもそうだが、そんな圧力と記者としての本能と友情の間で板ばさみになるカルが非常に魅力的で、作品の世界にぐっと引き込まれる。やはりラッセル・クロウはいい役者だ。このラッセル・クロウのキャスティングはマクドナルド監督自身が望んだものらしい。
その面白さは良しとして、この映画が果たして何を描いているかというと、メディアへの(権力と経営からの)圧力もテーマとしてはあるのだが、そこはあまり重要には見えない。特に権力からの圧力はそれほどでもなく、『消されたヘッドライン』という邦題は(もちろん007シリーズの『消されたライセンス』を意識したのだろうが)あまり作品の本質を表してはいない。
むしろ重要なのは新聞記者が陰謀を明らかにするという行為である。ワシントン・グローブ以外の新聞社は読者受けがいいスキャンダル記事を追うばかりでその背後にある陰謀に注目しようとはしない。そこを負い続ける愚直なベテラン記者のカル、彼に焦点を当てることで今のマスメディアの脆弱さが浮き彫りになるのだ。ヘッドラインを消すのは権力ではなくマスメディア自身であり、それを指示する大衆なのである。
それは今の日本でも(というよりは日本ではさらに)当てはまることだ。どのTV局も新聞社も横並びで同じようなニュースばかり垂れ流し、本当にわれわれが知るべき隠された真実などは決して報道されない。この映画で描かれたような陰謀が今存在しているとは思えないが、この作品が示唆しているのはもしこのような大掛かりな陰謀が存在したとしても現在のマスメディアではそれは明らかにならない(隠し通せてしまう)ということだ。
まずエンターテインメントとして面白く、さらには現代社会を考えさせもする。この構図の複雑さは2度目に見る楽しみもありそうだから、そのときにはこの作品がしさする現実の問題ももっとわかるようになるだろう。色々と見所の多いサスペンスの秀作だ。
(C)2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.