MAXED OUT ~カード地獄USA
2009/5/25
Maxed Out: Hard Times, Easy Credit and the Era of Predatory Lenders
2006年,アメリカ,90分
- 監督
- ジェームズ・D・スカーロック
- 脚本
- ジェームズ・D・スカーロック
- 撮影
- ジョン・イーソン
- 音楽
- ベノワ・カレスト
- 出演
- ドキュメンタリー
カード社会アメリカ、ラスベガスの土地の値上がりにより莫大な利益を上げようとする人々、逆にカード負債の返済のために日々の生活を圧迫される人々。便利なはずのカードが実は巨大な金融機関によってごく普通の人々を搾取するための手段になっていた。そしてその危機は人だけでなく国家にまで…
カード社会アメリカが孕む危うさを描いたドキュメンタリー。サブプライムローン崩壊を予言したともいわれ、話題になった。
クレジットカードは便利だ。現金がなくても買い物が出来るし、振込みやら代引きでは金銭のやり取りが面倒なネット通販などでは重宝する。しかしなんだか最近どこに言っても「カードに入れ」と勧誘されるような気が誰しもしているのではないか。でも、分割払いにしない限り手数料が入るわけでもないし、多くのカードは年会費すら取らない。なのにどうしてそんなに顧客を得ようとするのか? その疑問の一端を解き明かしてくれるのがこの映画だ。
この作品に描かれているのはアメリカのカード会社が“返済できない人”を求め、それをいかに食い物にしているかということだ。利率が29%というのもかなり高いが、それに加えて遅延に対する損害金や限度額の超過に対する違約金といったものが発生し負債が雪だるま式に膨らむという。だからなかなか借金を返してくれない債務者ほど「いいお客」ということだ。
さらに焦げ付いた債権は安く売って債権回収業者が債権をとりたてる。このシステムはかなり怖い。勝手に債権を売ることが許されているなんて…
さらには無知な大学生をターゲットにするなど大手銀行の信用を利用したクレジットカード会社の汚いやり口がいろいろ紹介される。確かにその内容は勉強になるが、しかし消費者としては自己防衛できるレベルのものという気もしないではない。作品の終盤で登場した中年の女性は夫が死んで住宅ローンを払えなくなりクレジットカードのキャッシングでまかなって最終的に首が回らなくなったという。これはさすがに本人の責任も大きいのではないかと思う。
多くはクレジットカード会社の営業マンの口車に乗せられて自分に不利な契約を結んでしまったという被害者だろうし、その手口は詐欺とは言わないまでもコンプライアンスの観点からはかなり問題のあるやり方であることは間違いない。しかしやはり被害者にならないよう勉強することも大切なわけで、ここに登場する人たちはあまりに無知で無防備すぎるように私には映る。
まあ、この作品がそんな人たちの教科書となったという部分もあるのだろうけれど、なんだか最後まで違和感を感じずに入られなかった。カード会社はもちろん悪い。それを保護する政治家も悪い。確かにブッシュが決めた破産法改正はひどい。でも根本的な原因はもっと根深いところにあるのではないか。
誰かがアメリカを“厳格な物質主義の国”と呼んでいた。物質主義とはつまり、モノに価値基準を求めるということ。この作品でも「家は大きければ大きいほどいい」という発言があったり、ものをコレクションすることに言及されていたりする。ものが大きかったり、多かったり、あるいは堅牢だったりすればそれだけ価値が確実なものになるということだ。そしてそれは人々が大銀行を簡単に信用してしまうことにもつながるのかもしれない。お金というのは確実ではないあやふやなものだけれど、大銀行の堂々とした建物やその“有名さ”は物質的な確実さをあらわす。だから人々は大銀行を信用し約款を読むこともなくサインしてしまう。
その物質主義を超えた物質至上主義が生み出す価値観がこのような悲劇の温床になっているということなのかもしれない。そう考えたところで何かがはっきりしてもやもやが晴れるわけではないが、理解し難いアメリカ人の物事のとらえ方を探る一つの手がかりにはなるのではないか。そして日本もそんなアメリカに近づいているのではないか。そんなことを思う。