マンデラの名もなき看守
ネルソン・マンデラを称えるヒューマンドラマ。もう少し骨太さが欲しかった…
2009/6/2
Goodbye Bafana
2007年,フランス=ドイツ=ベルギー=南アフリカ,117分
- 監督
- ビレ・アウグスト
- 原作
- ジェームズ・グレゴリー
- ボブ・グレアム
- 脚本
- グレッグ・ラター
- 撮影
- ロベール・フレース
- 音楽
- ダリオ・マリアネッリ
- 出演
- ジョセフ・ファインズ
- デニス・ヘイスバート
- ダイアン・クルーガー
- パトリック・リスター
1968年の南アフリカ、看守のジェームズ・グレゴリーはネルソン・マンデラらが収監されているロベン島刑務所に配属される。彼らの言葉であるコーサ語を理解するジェームズは検閲官に任命される。妻のグロリアは昇進の機会ととらえ喜び、ジェームズも忠実に仕事するが、徐々にマンデラに魅かれてゆく…
ネルソン・マンデラの獄中生活を描いた実話をもとにした映画。監督はデンマーク人のビレ・アウグスト。
アパルトヘイト下で人種差別的偏見がはびこっていた南アフリカで黒人指導者ネルソン・マンデラと接することで少しずつ考え方を変えてゆくひとりの看守を描いたヒューマンドラマで、人類史の1ページに記される出来事を描いた物語として見る価値はある。
この作品で主に描かれているのは白人側の視線だ。主人公のジェームズは子供時代を黒人の少年と育った“黒人びいき”だが、その妻のグロリアは白人社会にどっぷりと浸かり、黒人を野蛮人でテロリストと考えることにまったく疑問を抱いていない。ジェームズも他の白人に比べれば黒人に対して好感を持っているが、政策としてのアパルトヘイトにはまったく反対しておらず、子供たちにもあえて急進的な教育を施そうとはしない。
ジェームズは時代の本の少し先を行ってはいるが、それはほんの少しのことであり、しかも未来へと進み行くその進みようは社会と同じく非常にゆっくりだ。この作品の時間は1968年にはじまり、マンデラが解放されるときに終わる。その時間はあまりに長く、その時間と比して変化はあまりに小さい。
われわれがここから学ぶことがあるとしたらネルソン・マンデラの寛容さと、白人たちから見て取れる無知であることの危険性だ。そして個人のレベルと政治のレベルを切りはなすことで個人を操作しようとする権力の恐ろしさであろう。
もちろんこれらはつながっている。白人社会の権力者たちは国民(=白人)の無知を利用して黒人を敵視させ、権力構造を維持しようとする。個人レベルで接すれば差別の不条理に気づくはずの白人たちは盲目にされ、権力による差別に加担する。黒人たちはそんな権力を非難し、攻撃しはするけれど、無知である白人たちに非難の矛先を向けることはせず過去の差別から目をそむけ彼らを赦す。
そんな構造がすっきりと描かれているのはいいと思う。ただ、南アフリカの問題が白人による黒人の差別という単純な問題ではなく、イギリス系とオランダ系という白人内の対立の問題も大きなウェイトを占めていたということが無視されているのは残念だ。なんとなくマンデラを持ち上げるのではなく、社会的な背景がもっと詳しく書き込まれていれば見ごたえのあるドラマになったと思う。
しかしデニス・ヘイスバートは大統領のイメージがすっかり染み付いてマンデラには似ていないのにしっくり来た。もうそんな役しかやれないのかも?