アンダーカヴァー
2009/6/5
We Own The Night
2007年,アメリカ,117分
- 監督
- ジェームズ・グレイ
- 脚本
- ジェームズ・グレイ
- 撮影
- ホアキン・バカ=アセイ
- 音楽
- ヴォイチェフ・キラール
- 出演
- ホアキン・フェニックス
- マーク・ウォールバーグ
- エヴァ・メンデス
- ロバート・デュヴァル
1988年、ニューヨーク、ナイトクラブのマネージャーのボビーは恋人のアマダと兄ジョセフの警部昇進祝いに駆けつける。そこで兄と警察署長の父親らからボビーのナイトクラブ“エル・カリブ”の常連でありロシアンマフィアの大物であるニジンスキーの逮捕に協力するよう求められる。その場では断ったボビーだったが…
『裏切り者』でチームを組んだ監督のジェームズ・グレイと主演のホアキン・フェニックスとマーク・ウォールバーグが再び集結して作り上げたクライム・サスペンス。
この邦題『アンダーカヴァー』というのはご存知の方も多いと思うが、「潜入捜査」という意味だ。ということは、このクラブのマネージャーであるボビーが実は警察官だったという『インファナル・アフェア』みたいな話かと思ったらそういうわけではなく、警官一家のはみ出し者だったのが捜査に協力を求められるという話だった。
この時点ですでにこの作品が一筋縄ではいかないことが見て取れる。ボビーは家族=警察=権力になじめない男であるわけだが、それを無理やりに協力させようとするわけだ。まずそこに表れるのは警察の傲慢さであり、軽蔑していながら彼の協力なしには犯人を捕まえられないという矛盾である。
ボビーの兄ジョセフはその矛盾を力で解決しようとするが、簡単ではなく、逆にマフィアの餌食になる。そこで権力は家族になり、ボビーの立場は複雑になる。「警察の犬になる」ことは拒否できても「家族のために立ち上がる」ことは拒否できない。だからボビーはずっと矛盾を自分の中に抱えざるを得ないのだ。
そしてそのスッキリしない展開にあわせるかのようにアクションも重苦しい。スーパーマンはれれもおらず、警官もマフィアもみんなが普通の人間、百発百中の射撃の名手もいないし、弾に当たれば死ぬ。カーチェイスのシーンでも超人的な運転をすることはなく、盛り上がりどころのはずのカーチェイスが逆に作品全体のトーンを下げていく役割を果たす。
そしてそこに潜む裏切りがさらに物語を重苦しくしてゆく。このあたりの冷たい映画のつくりは独特でなかなか面白いと思う。どこかアメリカン・ニューシネマを思わせるがその反体制という単純な思想を拒否してもいる。この作品が88年という舞台を選んだのは示唆的だ。70年代までは反体制が格好良かった。21世紀にはもはや反体制は映画の題材になりえなくなった。その中間の時代を舞台に描かれるこの葛藤、そこに何かがひっかかる。
ホアキン・フェニックスはなんだかすごくいい役者になった。主人公が抱える葛藤や矛盾を見事に演じていたと思う。彼の演技のおかげも会って見ごたえのある作品になっている。