厄介な男…からっぽな世界の生き方
2009/6/9
Den Brysomme Mannen
2006年,ノルウェー,94分
- 監督
- イエンス・リエン
- 脚本
- ペール・スクライネル
- 撮影
- ジョン・クリスティアン・ローゼンルンド
- 出演
- トロンド・ファウサ・アウルヴォーグ
- ペトロネッラ・バーケル
- ビルギッテ・ラーセン
地下鉄に飛び込み自殺を図った男、その男がバスで連れられてきた街は清潔で仕事もあり、落ち着いて暮らすことができた。しかし、そこで暮らす人々はどこかよそよそしく、食べ物も飲み物も無味乾燥だった。その男アンドレアには恋人もでき幸せに暮らすのだが、ずっと違和感を抱え続けていて…
幻想的で哲学的なノルウェー発のミステリー・ドラマ。2006年のカンヌ映画祭でACID賞を受賞。
男の自殺はこの物語の前なのか、後なのか、それとも途中なのか。そんな疑問を抱きながら物語は始まる。よくわからないがバスで荒野の只中にあるガソリンスタンドにやってきた男。そこから車で送られたのは立派な街、そこにはアパートも家具も洋服も仕事も用意されていて、翌日から男は快適な職場で仕事を始める。同僚たちは感じはいいがよそよそしく、食べ物は味気なく、酒を飲んでも酔えない。自殺した男を見かけるが誰も足を止めることもなく、淡々と処理される。彼をこの場所へとつれてきたバスが戻るのを追うと、荒野の只中でバスは忽然と姿を消した。
その男アンドレアは違和感を覚えながらも同僚に話しかけ、恋人を作り、その世界になじもうとする。しかししかし…
この映画は、奇妙な世界とそれに違和感を感じ続ける男の物語だ。その世界が死後の世界なのか、4次元的な世界なのか、何なのかはわからないが、それは快適で死も苦しみもない世界のように見える。
天国か、地獄か、ユートピアか、煉獄か、そんな風にこの世界を捉えられないまま、冒頭の自殺のシーンへと物語りは進む。アンドレアは絶望して自殺をしようとするのだが、結論から言えば彼は死ねない。この世界では死を選択することはできないのだ。
この物語から私が読み取った寓意は、不快なものを排除しようとすると同時に喜びまでも失われてしまうということだ。喜びが失われてしまえば、不快なことがなくても、それは地獄に等しくなる。しかし中には不快な思いをするよりは喜びをあきらめたほうがいいと考え、喜びをあきらめたことすら忘れてしまう人もいる。そういう人たちは本来喜びがあるべきところを物質で埋め合わせようとする。この映画で描かれている世界はそのような人々のとってのユートピアなのだろう。
現代社会への批判というほど強いメッセージを持つものではないが、この不思議な世界に案じる違和感は私たち自身の生活を少し見つめなおさせてくれる。