Jesus Camp
2009/6/17
Jesus Camp
2006年,アメリカ,84分
- 監督
- ハイディ・ユーイング
- レイチェル・グレイディ
- 撮影
- ミラ・チャン
- ジェナ・ロシェル
- 音楽
- フォース・セオリー
- サンフォード・リヴィングストン
- 出演
- ベッキー・フィッシャー
- テッド・ハガード
- マイク・パパントニオ
聖書を絶対視するキリスト教原理主義(福音派)、科学を否定し、進化論を否定する彼らは子供にも独自の教育を施す。アメリカ国民のおよそ4分の1がその信徒だという福音派の子供向けサマーキャンプでは牧師のベッキー・フィッシャーのもと驚くべき教育が行われていた…
ブッシュ元大統領も信徒である福音派を描いた社会派ドキュメンタリー。アカデミー賞の最優秀長編ドキュメンタリーにもノミネートされた。
福音派あるいはキリスト教原理主義は日本ではあまりなじみがないが、アメリカでは実に国民の4分の1が信徒だという。彼らは聖書の言葉を文字通りに信じる。つまり、処女懐胎を信じ、天地創造を信じ、キリストの復活を信じる。基本的に科学を信じず、進化論は否定する。
映画の序盤に家庭での教育風景が登場し、「地球温暖化は気にすることない」と語る。なぜならば最後の審判が訪れる以上、地上での出来事を心配することはないからだ。気温が何度か上がったところでそれほど影響はないというわけだ。
つまり彼らが考えるのは神のことだけなのだ。正しい教えを広め天国に行くこと、そしてより多くの人が天国に行けるようにすること。だから中絶反対は大きなテーマとなる。神が禁じていることを認めることは絶対にできないのだ。
しかし、彼らは多くの矛盾を抱えている。科学を否定しながらも科学の恩恵にあずかることにはまったく疑問を抱かない。結局のところ神を都合のいいように利用して、自分たちだけを正当化しようとする。自分たちなりの聖書の解釈を思想と信じ、すべての事柄をその解釈に当てはめることを「考えること」だと勘違いしている。
そしてさらに重要なのは、彼ら自身がその勘違いや矛盾にちっとも気づいていないということだ。彼らがいっているのはつまり、神や精霊が何でもやってくれるから自分は何も考える必要がないということだ。ただ神を信じて聖書に書かれているとおり行動していればすべてはうまくいくと。
この作品はそのような彼らの矛盾をあからさまにではなく描く。彼らの信仰を否定するようなことを言うのは難しい(彼らにも信仰の自由はあるし、人口の4部の1を占める人々を敵に回すのも厄介だ)。でもこの程度ならたぶん彼らは自分たちが否定されていることに気がつかないはずだ。そのあたりがこの作品の作り方のしたたかなところだといえよう。
そのような傾向が明確になるのは、最後にキリスト教左派のラジオDJが福音派の牧師であるベッキーにインタビューするところだ。彼は福音派のやり方に異議を唱え、「これは教育ではなく洗脳だ」という。しかしベッキーはそんなことは気にも留めない。なぜなら神を信じているからだ。結局彼らの議論はかみ合わない。そもそもよって立つものが完全に異なっているからだ。
本当になんともやりきれない。
最後に、どうしてこんな人たちがアメリカの人口の4分の1を占めてしまうのか考えてみた。要するに彼らは便利なのだ。彼らは中絶反対とか同性婚反対という政治的な主張を死はするけれど、基本的には神のことしか考えていない。だからあるものを素直に受け入れる。そして現世は快適であればいいと考えている。だから大量生産大量消費を是とするアメリカの産業界にとっては非常に都合がいい人たちなのだ。産業界にとって都合がいいということはつまり大部分の政治家にとっても都合がいいということだ。
そして彼らは神のことしか考えていないから他人のことを考えることもしない。彼らは集まっているが“社会”を構築してはいない。ばらばらの人たちは扱いやすい。本当に考えれば考えるほど理解しがたい…