1408号室
2009/6/20
1408
2007年,アメリカ,104分
- 監督
- ミカエル・ハフストローム
- 原作
- スティーヴン・キング
- 脚本
- マット・グリーンバーグ
- スコット・アレクサンダー
- ラリー・カラゼウスキー
- 撮影
- ブノワ・ドゥーム
- 音楽
- ガブリエル・ヤーレ
- 出演
- ジョン・キューザック
- サミュエル・L・ジャクソン
- メアリー・マコーマック
- トニー・シャルーブ
超常現象が起きるスポットを訪ねてはガイド本を書くオカルト作家のマイク・エンズリン、あるとき彼の元に「1408号室には入るな」というホテルのポストカードが届く。ホテル側は宿泊に難色を示すが、マイクは出版社の協力も得て強引に1408号室に泊まることに。そして…
スティー・ヴン・キング原作の密室サイコスリラー。さすがはキングとりあえず怖い。
泊まった人は必ず自殺をするという1408号室、オカルトライターで幽霊の存在を信じないマイクも、支配人から聞かされた死者の数字に恐れおののき、不安を抱えたまま部屋に行く。見たところなんてことのない部屋でマイクも拍子抜けするのだが、しばらく時間がたった後部屋は突然牙を剥く。
ホテルの部屋という密室で展開されるサイコスリラー、あの手この手で主人公を脅かす。経験豊富なマイクはその原因を解明しようとし、さまざまに考えるが、なかなか答えは出ない。そして部屋によるさまざまな攻撃によってマイクの精神は少しずつ崩壊していくというわけ。
この作品の肝は部屋が人を殺すのではなく、部屋に泊まった人が自殺をするという点にある。つまり部屋が直接的に人を傷つけるのではなく、部屋に泊まった人が自ら命を絶つのである。つまり、この部屋は泊まった人をひたすら精神的に追い詰めるというわけで、まさにサイコスリラーだ。
そして、この部屋ではさまざまな不思議なことが起きるが、それらは基本的にマイクの視点から描かれている。マイク自身が指摘するようにそれは現実ではなくて幻覚かも知れず、現実とマイクの目で見えているもの、聞こえているもの、触れているものが違っているのかもしれないのだ。
実際カメラは時々マイクの見えているものとは違う「現実らしきもの」を映像として挟み込む。マイクには部屋に見えているものが実はただの冷蔵庫だったりということを明らかにするのだ。しかし、果たしてそれが本当に現実なのかどうかはわからない。それが現実のように見えるのは現実らしく、また現実だと信じたいものだからであって、もしかしたらマイクの見ているもののほうが現実で、私たちが現実だろうと思っているもののほうが幻覚なのかもしれない。
サイコスリラー全般に言えることだが、このように幻覚が関わってくる映画というのは常に認知の問題に突き当たる。自分の見ているものが現実なのか、それともそれとは別に現実というものがあるのか。普段は見ているもの(いわゆる主観的事実)と見ているはずのもの(いわゆる客観的事実)の間にずれはない。しかし、それにずれが生じたとき、どちらを本当の現実と考えればよいのか。それを一元的に決定しうる要素というものはない。
この作品はその辺りの微妙なラインをうまくたどり、サイコスリラーのメタな部分を描いている。何が現実なのかわからないという恐怖、その恐怖が物語が進んでゆくにつれ増幅され、どんどん主人公と観客を追い詰めていく。
最後には一応結末がつけられているのだが、現実と幻想の間であまりに混乱してしまった観客には、果たしてその結末を現実と信じていいのか確信がもてなくなってしまう。それが最後までこの作品がうまいと感じさせるところだ。やはりスティーヴン・キングの原作がいいのだろうか。キングの短編の映画かは本当にいい作品が多い。