喜劇 とんかつ一代
2009/6/29
1963年,日本,94分
- 監督
- 川島雄三
- 原作
- 八住利雄
- 脚本
- 柳沢類寿
- 撮影
- 岡崎宏三
- 音楽
- 松井八郎
- 出演
- 森繁久弥
- 淡島千景
- フランキー堺
- 加東大介
- 三木のり平
- 池内淳子
- 木暮実千代
- 水谷良重
- 団令子
- 山茶花究
- 岡田真澄
- 益田喜頓
とんかつ屋とんQのオヤジ久作は義理の兄田巻伝次がコック長を勤める青龍軒を飛び出したことから数十年頭が上がらない。しかも伝次に勘当された息子の伸一を家にいさせ、青龍軒には買収話が持ち上がっていた。しかもその買収先というのが伝次の昔の恋敵である衣笠大陸だというから大変で…
夭逝した川島雄三の晩年の喜劇。豪華キャストでこれでもかとばかりに見所が満載、まさに日本映画黄金期の空気を伝える作品。
いきなり「とんかつが食べられなければ死んでしまいたい」なんていう変な歌詞の歌にとんかつを作っている映像がかぶさったなんともおいしそうなオープニング、加東大介は老舗フランス料理屋のコック長で、森繁は昔そこで修行をしていたが独立してとんかつ屋を開いた。しかも妹と結婚したので義理の兄弟にも当たる。
加東大介の息子(フランキー堺)もコックの修行から逃げ出して森繁のところに身を寄せ、上野のれん街の事務員のとり子と付き合っているが、そのとり子は森繁の親友のと殺の名人(山茶花究)の娘、そのフランキー堺の仕事は実業家の秘書で、その実業家(益田喜頓)というのが加東大介の昔の恋敵。
加東大介には後妻がいて、その連れ子が池内淳子なのだが、その旦那(三木のり平)がクロレラ研究家で、その隣に実家のある芸者りんごは加東大介も益田喜頓も馴染みで… とまあとにかくたくさんの人がでてきて、関係がややこしい。
しかし、その出てくるたくさんの人のキャラクターというのがそれぞれしっかり作られていて、なんとも楽しい。芸達者な役者達が自由に飛び回っている感じがまさに日本映画の黄金時代の勢いを感じさせるのだ。
中でも特にいいのはフランキー堺だろうか。役どころとしてはあまり格好いい役ではないけれど、この日とは本当に味がある。ただ私が好きだというだけなのかもしれないが、人懐っこい笑顔の下に激しい情熱と真面目さをもっているようですごく魅力的だ。
森繁と淡島千景の夫婦といえば何よりも『夫婦善哉』を思い出すが、この二人の夫婦役もまたツボだ。淡島千景は普段は一歩下がって夫を立てるようなキャラクターなのだが、芯に強いものをもっていてそれが時々顔を出す。そのときの勢いたるや本当に森繁をたじたじにしてしまうくらいのものだ。
三木のり平のとぼけた感じはいつ見ても面白いし、フランス人役の岡田真澄(今より大分外国人っぽい顔をしている)もピタリとはまっている。
最初も歌で始まったが、最後も歌。歌がちりばめられるというのも昭和30年代の映画のお決まりだ。出演者といい、シナリオといい、映像といい、とにかく30年代日本映画の見本市。傑作とはいわないが、黄金時代のエッセンスがみっちり詰まった作品とは言えるだろう。
この作品の後も職人を主人公にしたシリーズ化が企画されていたらしいが、川島雄三の夭逝により頓挫してしまったらしい。シリーズ化されていたら、「駅前シリーズ」や「社長シリーズ」のようになっていたんだろうなぁと思うと残念だ。