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ベストセラー

Devil's Playground

アーミッシュへの好奇心を満たし、信仰と自由について考えられる。
★★★.5-

2009/7/28
Devil's Playground
2002年,アメリカ,77分

監督
ルーシー・ウォーカー
撮影
ダニエル・カーン
ルーシー・ウォーカー
音楽
エイフェックス・ツイン
DJスプーキー
出演
ドキュメンタリー
preview
 独特の格好と文明を拒否する姿勢で知られるアーミッシュ、17世紀のスイスにルーツを持つ彼らは昔ながらの信仰と生活を維持するが、その中に16歳からの一定期間、すべての快楽が許されるラムスプリンガという期間を送る。そこではタバコ、酒、ドラッグ、セックス何でもあり、しかしそれは同時に若者が将来を選択する期間でもある。
 独特な伝統を持つアーミッシュの若者が悩み、成長する姿を描いたドキュメンタリー。アーミッシュを捉えた映像は貴重。
review

 アーミッシュというのは気になる存在だった。独特の格好や馬車が時々アメリカの映画やドラマに登場することがあるし、ドラマなどの会話の中で堅苦しい人物を「アーミッシュじゃないの?」などと揶揄するような場面が出てくることもある。しかし、アーミッシュの情報というのは日本にあまり入ってこないし、彼らを被写体とした映像というのも観たことがなかった。

 その理由の一つは彼らが文明を拒否している以上、カメラに撮られることを嫌がるからだ。自分達がテレビはおろか電気も使わないのに、映像に撮られることに何の意味があるのか。アーミッシュの人たちは非暴力主義だというから、無理やり撮ろうと思えば撮れるのだろうが、それでは誠実な映像は作れない。

 しかし、このラムスプリンガという期間の若者たちはTVどころか車も酒もタバコもドラッグも許されているからビデオに収められることを拒否する理由もなく、だからこの作品は成立しえた。作品中でアーミッシュに入信することにした若者(名前は失念)が入信後は撮影を拒否したというエピソードからもそのことがわかる。

 そんなアーミッシュへの興味を満たしてくれつつ、そのアーミッシュ若者達をこの作品は描く。この何でもありのラムスプリンガというのは滅茶苦茶だ。ドラッグも許されるとは言っても合法なわけはなく、16歳で酒やタバコが許されるとも思えない。

 まあ、それはともかくこのラムスプリンガの目的はやりたいことをやりたいだけやったらすぐに飽きてアーミッシュに戻ってくるはずだという発想があり、実際ほとんどはアーミッシュの戻ってくるようだ。しかし世間知らずの若者達が酒とかドラッグをやってみたところでそれがそんなに楽しいわけもなく、帰ってくるのは当然といえば当然だ。

 彼らはアーミッシュの中で育っているからアーミッシュの価値観で世界を見る。そこに酒やタバコが加わってもそれほど世界は変わらない。そうではなくアーミッシュの中では得られない知識や選択肢を得たら彼らはアーミッシュから出て行くかもしれない。この作品の中で描かれているベルダがアーミッシュをでることを選択したのは大学とキャリアという選択肢を知ったからだ。

 この作品で興味深かったのは若者たちの多くが「車を手放したくない」と言っていることだ。車のスピードと馬車の遅さ、その対比こそがアーミッシュの社会とわれわれ(イングリッシュ)の社会を区別する最大の要素である。それは17世紀と現代のスピード差、電気の誕生以来文字通り加速度的に上がっていった生活のスピードの差なのだ。

 スピードを手にすれば移動も通信も何もかもが速くなり、可能性が広がる。それは選択の幅が広がることを意味し、自由をも意味する。ベルダはスピード社会の中でその自由の素晴らしさを知った。しかし多くの若者はただ車のスピードに憧れるだけで、その背後にある可能性には気づかず、アーミッシュに戻っていくわけだ。

 つまり彼らはラムスプリンガによって若者に選択肢を与えているふりをしながら、その前の段階で彼らが自由を選択する可能性を限りなく低いものにしてしまっている訳だ。彼らはアーミッシュの生活を送ることこそが幸せだと信じているのだからそうするのは当然だし、システムとしては非常に合理的だと思う。

 しかしそこに気持ちの悪さもやはり感じる。そして私はここから翻って自由を選択することができることの幸せを感じる。自由というのは苦しく、多すぎると時には逃げたくなるものだけれど、一旦手放してしまったらそれを再び手にすることは難しいのだということをこの作品は言っているようにも思える。

 信仰と文明(科学)と教育と自由、その関係は複雑で、しかし考えるのは面白い。この作品自体はちょっと踏み込みが甘いと思うが、自分でその先を考えるにはいい素材だ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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