ある機関助士
2009/8/12
1963年,日本,37分
- 監督
- 土本典昭
- 脚本
- 土本典昭
- 撮影
- 根岸栄
- 音楽
- 三木稔
- 出演
- ドキュメンタリー
主人公は国鉄の機関助士、蒸気機関車に乗り込み上野から水戸までの乗務を終える。昼ごろつくと、しばらく休憩、その間に仕事についての紹介がされる。そして夕刻、帰りの乗務につくのだが…
国鉄がスポンサーとなって撮られた鉄道ドキュメンタリー。電化が進みつつある国鉄の中で蒸気機関車に乗務する機関助手の奮闘を描いた。
まず蒸気機関車の機関助士を描いたドキュメンタリーというところが今となっては貴重だ。この時点ですでに電化が進み、蒸気機関車は消え行く運命にあった。国鉄の意図がどこにあったのかはわからないが、結果的に貴重な映像資料になったといえる。
映画のほうは、上野から水戸への乗務の終盤から始まる。定刻通りに到着し、点検を終え、休憩に入る。そのときに手や顔を洗うその泡の黒さが蒸気機関車の煤のすごさを物語る。その後は機関士の労働環境や、機関助士になるにあたっての事前の教育など国鉄の宣伝っぽいエピソードが連なる。国鉄といえば労組が強いというイメージがあるから、このあたりは強調しておく必要があるのだろう。
そして帰り、彼が乗務する列車は3分遅れで出発する。そして東京につくころにはラッシュ時、彼は「取手に着くまでに3分を短縮しなければならない」と言う。このころにすでに東京のラッシュ時のダイヤは過密状態だったというのも面白いエピソードだ。しかも映像を見る限り今より混雑具合はひどそうだ。今よりも交通手段が少ないから、人が少なくてもラッシュはひどくなるのだろう。
ともかく、その3分を縮めるために彼と機関紙が奮闘する。この場面やその前の彼が最後の実地研修で事故のシミュレーションをする場面、このあたりの躍動感がこの映画をただの宣伝映画ではなくしていると思う。言ってしまえばただSLが走っているだけの話なのだが、このような魅力的な映像で構成することによってそこに現れる人々が生き生きとし、その人々を通して当時の東京の姿が浮かび上がってくるのだ。
錆びて朽ち落ちてゆく機関車を丹念に映しているのも味があるし、ときおり登場する特急電車の姿も懐かしい。