ドキュメント 路上
2009/8/12
1964年,日本,54分
- 監督
- 土本典昭
- 脚本
- 楠木徳男
- 撮影
- 鈴木達夫
- 音楽
- 三木稔
- 出演
- ドキュメンタリー
オリンピックを控えてあちこちで工事が行われている東京、そこで働くタクシー運転手たちは常に危険と隣り合わせ。そんな運転手の一人を主人公として、彼が出会う困難やアクシデントを描く。
警視庁の公園で交通安全PR映画として作られたが、実際に使われることはなく、長年日の目を見ることがなかった作品。車に取り付けられたカメラの映像がスリリング。
ひとりのタクシー運転手が客を拾い、大きな道や町の中や高速道路を走る。スピード違反で白バイに捕まったり、交差点でトラックと接触しそうになって口論をしたり、ドライバー仲間と愚痴を言い合ったりと当時のタクシー運転手の日常がリアルに描かれている。
警視庁の後援で作られた映画で、目的は交通安全のPRだったらしい。そのためむごたらしい事故の映像が出てきたり、警察署の前に置かれた交通事故の分布図が映されたりする。しかしあまりその部分が強調されているわけではなく、むしろタクシードライバーの不満や整っていない道路状況が強調されていて、交通安全PR映画としては使われなかったというのもよくわかる。
しかし、そのおかげで映画としては面白くなったと思う。まずはオリンピック直前の東京の状況が本当にむごい事がよくわかる。どこに言っても工事中で道路はぼこぼこ、つぎはぎだらけで、突然未舗装の道になったりもする。カメラはその路面をアップで捕らえ、車の受ける振動を観客までもが感じ取れるようにしている。
さらに、信号や横断歩道の整備も進んでおらず、交差点では車がぐちゃぐちゃになり、歩行者はところかまわず道を渡る。タクシーはそんな危ない道を右へ左へとハンドルを切りながら縫うように進む。カメラは今度はそれを運転者(あるいは助手席)の視線でとらえていて、非常にスリリングだ。
このスリリングさこそ交通安全のPRになるのではないかと思うが、まあいろいろな理由で警察としては使いにくいだろうというのはわかる。
思うにこれは労働者の映画だ、タクシー運転手、道路工事の従事者、そして警察官、だれもが労働者でカオスと化している東京に振り回されている。しかし同時にその工事が未来への段階であることも、古びた住宅街を抜けたところに突然そそり立つスタジアムからうかがい知れる。
64年という東京にとって転換点となった年の街や人々の姿を映し取ったこの作品はいろいろに味わい、考えることができるように思える。ひとりの主人公を据え、彼の日常を追うというプロットも作品に入り込みやすくしていると思う。