チェ 28歳の革命
2009/8/14
Che: Part One
2008年,アメリカ=フランス=スペイン,132分
- 監督
- スティーヴン・ソダーバーグ
- 脚本
- ピーター・バックマン
- 撮影
- ピーター・アンドリュース
- 音楽
- アルベルト・イグレシアス
- 出演
- ベニチオ・デル・トロ
- デミアン・ビチル
- サンティアゴ・カブレラ
- エルビラ・ミンゲス
- カタリーナ・サンディノ・モレノ
1955年メキシコ、アルゼンチン人の医師エルネスト・ゲバラは友人のフィデル・カストロの家族と食卓を囲み、カストロの祖国キューバに渡りバティスタ政権に対する革命を遂行することを決意する。 1964年ニューヨーク、ゲバラは国連総会に出席するためアメリカに渡り、インタビューを受けていた。彼の話は過去の闘争に至り…
ソダーバーグがチェ・ゲバラの半生を描いた4時間半にわたる大作の前篇。時間軸が錯綜する語りもスリルを演出する映像も秀逸でゲバラ映画の決定版となりそう。ただ見る前にキューバ革命について多少の予備知識はあったほうがいいかもしれない。
革命闘争を開始する1955年のゲバラと革命後ニューヨークに滞在する1964年のゲバラ、この2つの時間にさらにその間のさまざまな時間を混在させながらモザイク状にゲバラの行動を追っていく。前半は彼が革命に参加し、カストロと共闘し、そして首都ハバナへと乗り込む直前までが描かれる。
常に死と隣り合わせのゲリラ闘争におけるチェの人間性、それがこの前篇の肝だろう。カストロに信頼されながらアルゼンチン人であるがために仲間からは信用されないこともあるチェ、しかし彼は確固たる信念を持ち、自分がどうあろうと仲間と農民のために戦う。その信念こそが彼をヒーローにしたのだ。
そしてソダーバーグはそんなチェを物語の中心にすえながら、その周辺で起きることを巧みに描いて彼の人間性を際立たせてゆく。たとえば革命軍の何人かが脱走し、カストロの命令だと偽って農民から金品を騙し取るというエピソードがある。このエピソードは誰が見てもひどいのだが、ソダーバーグはそれをすぐに解決するのではなく、別のプロットをある程度展開させた後でそこに戻ってきて解決する。これは物語を複雑にし、展開をわかりにくくしてしまう訳だが、そのような未解決のエピソードがいくつか平行することでそれらに次々に対処してゆくチェという人物の像をより鮮明にしていくのだ。
そしてこの複数のプロットが並行するというのは、この前篇のクライマックスともいえるサンタ・アナでの戦闘シーンにも効果的に使われる。このシーンでも単にチェの行動を追っていくのではなく、それぞれの兵士が町を制圧するためにさまざまな作戦を遂行する様子を平行して描き、それが組み合わさって全体像を描く。
個々の作戦に対して説明がなく、ちょっと観ただけではそれがどのように組み合わさるのかわからないのだが、進むにつれてそれぞれが意味を持ち始め、最後には収束してゆく。その組み方がなんともうまい。たとえば列車の前にたむろする敵兵を襲撃するシーンがあるのだが、多くの兵士が列車に乗って逃走した後しばらくして曲げられた線路が一瞬映る。これはもちろん列車を脱線させるための仕掛けなのだが、その脱線はすぐ起こるわけではなく、他の作戦の様子が描かれた後起きるのだ。だから観客は常に展開を中止してゆくことになるし、その“引っ張り”が緊張感を増す。爆破などの特殊効果は決して派手ではないのにこの戦闘シーンがスリリングなのはそんな編集の妙にあるのだ。
そしてそんな速い展開の中、チェのぶっきらぼうではあるが温かい人柄もよりいっそう浮き上がる。個々からの展開も大いに気になる絶品な前篇だった。