よみがえれカレーズ
2009/8/21
1989年,日本,110分
- 監督
- 土本典昭
- 熊谷博子
- アブドゥル・ラティーフ
- 原案
- 野口寿一
- 高岩仁
- 土本典昭
- 撮影
- 高岩仁
- 一之瀬正史
- 音楽
- 高田みどり
- 出演
- 伊藤惣一(ナレーション)
長年にわたるソ連軍の駐留と内戦で疲弊したアフガニスタンの人と国、1988年についにソ連軍の撤退が実現し、日本の撮影隊がアフガニスタンに入る。数百万人といわれる難民が帰国するが、反政府勢力はまだまだ勢いが衰えず、町にはロケット弾が打ち込まれていた。
復興を目指すアフガニスタンの人々を映したドキュメンタリー。アフガニスタンというなかなか日本人の眼に触れることのなかった国の実情を伝える。
カレーズというのはアフガニスタン全土に広がる地下水脈のこと、山からの雪解け水を1年にわたって国土に供給し続ける。はるか昔に人間の手によって作られ、このカレーズのおかげでアフガニスタンは乾燥した土地であるにもかかわらず豊かな大地の恵みを得続けることができていた。
『よみがえれカレーズ』というタイトルだから、そのカレーズが長引く内戦で破壊され、それを文字通りよみがえらせるのがテーマなのかと思ったら、そういうわけではなく、とりあえずこれまでのアフガンの歴史と、現在の状況が語られる。イギリスからの独立、王制、民主主義革命、西側諸国の介入、ソ連の介入、そして内戦。これらの歴史を知ることは非常に重要だ。今ではそこにさらに20年分の歴史を加えなければならない。ムジャーヒディーンによる攻勢、タリバーンによる実効支配、アメリカによる侵攻、内戦の継続…
1989年の時点で土本らはどこか楽観的で、ソ連軍の撤退によりこの国は平和に向かうと考えていたように思える。それはアフガニスタンの政策から来るものだ。中立を宣言し、帰国者には過去を問わずに内戦前の土地を保障する。それは復興と平和に向けて一眼となって取り組むことを意味する。そして、反政府軍として闘っていた人々が民兵となって国を守る側につき、ムジャーヒディーンをも説得しようと試みる。モスクのタイルが張り替えられ、カレーズの清掃が行われる。
しかし20年後の今ではそれがあまりに楽観的過ぎたことは明らかだ。アフガニスタンの国土は考えられていた以上に疲弊し、人々を支えきれず、反政府勢力の台頭を許した。もしかしたらこのタイトルどおりカレーズをよみがえらせ、国土の力を回復させることに力を注いだなら、アフガニスタンは変わっていたのかもしれない。
映画の終盤にモスクのタイルを張り替えるシーンがあるが、この辺りはアフガニスタンの人々の心情が伝わってくる非常にいいシーンだった。カレーズの再建も丹念に描けばきっと面白いシーンになったはずだ。カレーズは後半では清掃のシーンが出てきたり、水が少なくなったというコメントがあるだけで、アフガニスタン全体でどのような状況なのかということなどは明らかにされない。
もちろんゲリラ、地雷など全土の取材が容易ではないという状況もあったのだろうが、教科書的な叙述ではなく、カレーズを中心とした復興に焦点を当てたらもっと面白くなったのではないかと思う。そしてそれは同時にアフガニスタンが真に抱える課題も明らかにしたのではないか。
しかし、こういう作品はやはりもっと作られないと。