シベリヤ人の世界
2009/8/27
1968年,日本,99分
- 監督
- 土本典昭
- 撮影
- 山口貮朗
- 音楽
- 三木稔
- 出演
- 小松方正(ナレーション)
革命50周年を迎えたソビエト連邦、かつては流刑地だったシベリアはソビエトの中でも僻地、しかしそこで暮らす人々はたくましく生きていた。
土本典昭のチームは特別に許可を得てシベリアに上陸、シベリア各地を取材し、最終的には革命記念日のモスクワに至る。テレビで放映されたドキュメンタリー作品。
1967年のソ連、1962年のキューバ危機を経て米ソは緊張緩和に向かいつつあった。日本は60年と70年の安保闘争の間、70年安保の運動が始まろうとしていた時期だった。
そんな背景を考えつつ、この作品を見てみると、作品全体がソ連に好意的で、どこかその革命や社会主義思想に寄り添うようにも見える。この作品でチームが旅するのはシベリア、シベリアはソビエトにありながら日本に近く、アジア系の住民も多いから対象としやすかっただろう。しかも近いのに日本人はシベリアのことをほとんど知らない。
そのシベリアを旅しながら、人々に話を聞き、巨大なダム建設のために新たに出来た町に行き、そこでの結婚式の様子を映像に収めたりする。その人々はみな明るく朗らかで幸せそうだ。多くの人が労働目標を達成し、ボーナスをもらうなんていうシーンを見ると、ソ連は豊かで何不自由ない生活をしているように見える。
当時のソ連というのは本当にそんなに豊かだったのだろうか?この作品はどこかソビエトを理想郷のように描いているようで違和感がある。ソビエトがこの当時悲惨な社会だったとは思わないし、特別に許可してくれた国だから悪くは言えないという心理もあるのだろうけれど、わざわざシベリアに行って手放しに賛美する映像ばかりというのもどうも物足りない。
シベリアというと戦後の抑留を想起させるのだが、そのことについてはまったく触れていない。シベリアの自然は厳しいといいながらその自然の厳しさと戦っている場面も出てこない。
しかし、ソビエトのデザインには本当に秀逸なものが多い。赤の広場に掲げられるレーニンのポスターなどはデザイン的なインパクトが非常に強い。その部分はなかなかよかった。
そして、作品としていいのは音楽だ。映像効果として使われるのは三木稔のどこかメロドラマチックな仰々しい音楽だが、終盤北方の土地に行くとその土地のトナカイ飼いらの歌が使われる。この歌声は非常にいい。ナレーションでもアジアのルーツ的なことを言うが、やはり音楽には力がある。
作品全体として何が言いたいのかいまひとつ判然としないが、シベリアの雰囲気や人々の表情は伝わってくる。こういうドキュメンタリーは作るのが本当に難しいんだろうな。