水俣の図 物語
2009/8/30
1981年,日本,111分
- 監督
- 土本典昭
- 撮影
- 瀬川順一
- 一之瀬正史
- 音楽
- 武満徹
- 出演
- 丸木位里
- 丸木俊
- 石牟礼道子
- 伊藤惣一(ナレーション)
“原爆の図”で知られる画家丸木位里・俊夫妻は1979年、“水俣の図”制作のため水俣湾へと赴いた。そして1年後、その風景と出会った人々を描いた3m×15mの大作を完成させる。しかし彼らの探求は終わらず再び水俣を訪れる。
水俣病とその患者さんたちを描いてきた土本典昭がまた別の角度から水俣を見つめたドキュメンタリー。
作品の前半は79歳の丸木位里と68歳の妻俊の夫妻が新たな試みとして“水俣の図”を描く過程が淡々と叙述される。そしてそれと並行するように彼らのこれまでの功績も紹介される。それは位里自身の体験を基にした“原爆の図”、そしてそこから必然的に生み出されることになった“南京の図”“アウシュビッツの図”である。水墨画が専門で日本画の技法を習得している位里と洋画家の俊、そのふたりが共同作業によって作品を生み出してゆく様子も描かれる。
そして“水俣の図”は完成する。その作品は迫力があり、水俣を絵によって伝えてはいるがそれほど圧倒的なインパクトがあるわけではない。
しかし、彼らの探求はそこでは終わらない。彼らにインスピレーションを与えた天草出身の作家石牟礼道子とともに再び水俣を訪れ、今度は患者さんたちのスケッチをしてゆく。そしてその中で水俣病のふたりの少女に出会う。そのうちの一人は土本の以前の作品にも登場した坂本しのぶだ。彼らはこのふたりと出会い、彼女たちの中に美を見出すことで新たな水俣の図の構想を固める。そしてそれが作品へと結実する過程を目にすることで芸術の力を感じさせるのだ。
これまでも水俣を取り続けてきた土本典昭がまた別の形で水俣病を捕らえたわけだが、ここでは土本典昭の作家性は一歩下がった背景へと後退している。それだけこの“水俣の図”には力があるのだ。映像をこねくり回して言説を構築するまでもなく、観客に語りかけてくるものがある。
加えて水俣病の患者さんたちをスケッチするときの丸木俊の表情、原爆の図丸木美術館で子供たちに語る丸木位里の話など、それだけで十分な魅力がある。
そして、水俣病を描いたこれまでの作品は非常に直接的で時に目を背けたくなるような悲惨さや、見ている側に跳ね返ってくる社会的な不条理などが強くあったけれど、この作品は絵画というワンクッションがあることでそれが少しソフトになっている。
ただ、水俣病に関する予備知識がないとこの作品と“水俣の図”の持つ意味が十分には理解できないかもしれない。この作品があることで土本典昭の“水俣シリーズ”は完成度を増し、この作品はシリーズの中の一作として見られることでその魅力を増すのだろう。