大阪物語





2009/9/5
1957年,日本,96分
- 監督
- 吉村公三郎
- 原作
- 溝口健二
- 脚本
- 依田義賢
- 撮影
- 杉山公平
- 音楽
- 伊福部昭
- 出演
- 中村鴈治郎
- 市川雷蔵
- 香川京子
- 浪花千栄子
- 勝新太郎
- 三益愛子
- 林成年

百姓の仁兵衛一家は年貢が払えず夜逃げをして大阪に流れ、荷揚げ所にこぼれた米を拾ってその米を売り身を立てるようになる。十年後、立派な店を持つようになった仁兵衛だがその吝嗇は度を越して周囲から冷たい視線を浴びる。そして家族までもが…
溝口健二が企画し依田義賢が脚本を書いたが、溝口が急逝したため吉村公三郎がメガホンを握ることになった。中村鴈治郎の強欲ぶりが印象的。

年貢が納められずどうにもならなくなった貧乏一家がわずかな希望にすがって大阪に出てくる。しかしその希望は一瞬で潰え、荷揚げ場で拾った米を売って何とか糊口をしのぐと、その米を売って生活していくことを思いつく。そして十年後…、なんと両替屋として立派な店を持つようになった仁兵衛は手代を十文の間違いで怒鳴りつけるケチな旦那になっていた。
この中村鴈治郎演じる仁兵衛の吝嗇(ケチ)ぶりがただものではなく、そして鴈治郎はそれを見事に演じている。表情といい、猫背な姿勢といい、動き方といいこの人は本当にケチなんじゃないかと思えてしまうくらいの名演だ。
ところでこの吝嗇というのは江戸時代を舞台にした話によく出てくる。落語の小話でもケチな店主が向かいの店で金槌を借りようとしたら釘を打つと経るからだめだと言われ「仕方ない、家のを使うか」て行ったなんて話しがある。みんなが貧しかった江戸時代、金を儲けるためにはそれこそ爪に火をともしてでも稼がなきゃいけなかったわけだ。
そのケチな仁兵衛がもう一人のドケチ鐙屋の女主人に出会って話がさらに展開していくので、このケチの面白話をもっと膨らませてもよかったのではないかと思う。
この映画はそんな遊びがあまりないまま子供の世代の話になっていく。仁兵衛の娘おなつは番頭の忠三郎といい仲、息子は真面目だが、鐙屋の若旦那の市之助に誘われて新町(遊郭)に行き、すっかりはまってしまう。そしておなつと市之助を結婚させようという親同士の考えにはむかってゆく。
ここに来ると、何か世代間の価値観の違いというものが表れてくる。生きるため、幸せになるためには金が必要だという世代と、金で幸せは買えないという世代、この作品の舞台は江戸時代だが、実際のところこの作品が作られた当時のリアルタイムの現状をも表していたのではないかと思える。
この辺りが吉村公三郎らしい味付けと言うところだろうか。でもやはり溝口が撮ったら…ということを考えずにはいられない。溝口が企画した作品だから溝口が撮ったほうが面白くなるのは当たり前で、そんな作品で比較されるのはかわいそうなのだが、やはりこの作品はちょっとなんだったかもしれない。
作品のも、吉村公三郎にもなんだか気の毒で、中村鴈治郎のけちんぼぶりだけが妙に印象に残った作品だった。