未来を写した子どもたち
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2009/9/7
Born into Brothels
2004年,アメリカ,85分
- 監督
- ロス・カウフマン
- 撮影
- ロス・カウフマン
- ザナ・ブリスキ
- 音楽
- ジョン・マクダウェル
- 出演
- ドキュメンタリー
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インド・カルカッタにある売春街で写真を撮ろうと考えた写真家のザナはそこに住み、そこにあふれかえる子供たちに写真を撮らせることを思いつく。その活動によって子供たちとの絆を深めたザナは子供たちを街から救うべく彼らの写真を紹介する活動を始める。
インドで子供たちのために活動する写真家ザナ・ブリスキを追ったドキュメンタリー。アカデミー長編ドキュメンタリー賞など数々の賞を受賞。
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インドの売春街の写真を撮るためにインドを訪れた写真家のザナ・ブリスキは写真を撮るためにはその街に暮さなければならないと感じ、暮してみるとその街の子供の多さに驚く。映画は冒頭で街のカオスな様子や走り回る子供たちを映し、彼女の実感を観客へとつなげる。
次の段階は子供たちが写した写真。安価なインスタントカメラだが、子どもたちの写した写真は生き生きとしていい写真がたくさんある。主要な子どもたち一人一人が紹介され、その境遇が述べられるのもいい。
子供たちの写真は本当に素晴らしい。特に映画の中でも絶賛されるアビジットの写真、これは素人目に見ても本当にいい写真が多い。他の子のいい写真というのはたまたまというかたくさん撮った中にいい写真が含まれているという感じなのだが、このアビジットの写真はザナが「連作」と呼ぶように粒ぞろいだ。
そして写真は彼らの希望となり、写真から勉強への意欲がわく。ザナもそんな彼らを助けるため、受け容れてくれる寄宿学校を探し回る。この辺りは映画としてというより彼女の活動の素晴らしさが観客に訴えかける。たまたま出会った数人の子供たちを救っているに過ぎないのだが、全員を救えるわけはないとあきらめるのではなく、一人でも二人でも救おうという姿勢が心を打つ。
しかし、彼らの環境は救おうとする人たちの努力や子どもたちの意欲を簡単に無にしてしまいかねない。そのもろさもこの映画は描く。才能に恵まれたアビジットでさえも母の死によって意欲を失い、容易に犯罪に手を染められる環境にいることを再認識させられる。
彼らを救うのは容易ではない。単に彼らを売春街から引っ張り出して寄宿学校に入れればいいというものではない。彼らの親たちの多くはろくでもないが、それでも子供たちを愛し、子供たちも親たちを愛している。彼らを縛っているのは悪しき伝統であり、彼らは無知によって再生産され続ける社会の犠牲者なのだ。
この映画は、そんな人々を無知から救い、社会を変えようというひとつの意義ある運動について伝える素晴らしいキャンペーンである。個人的にはもっと深く考えさせられるような作品のほうがドキュメンタリー映画としては優れていると思うが、今の世の中ではこういう作品こそ求められているという気がするし、いつの時代にもこのようにして必要な知を広く伝えようとするメディアは必要だ。
そして、この作品がシリーズ化され、何年、何十年にも渡って子供たちを追い、この街を追っていけたら非常に意義深い作品になると思う。