PARIS(パリ)
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2009/9/17
Paris
2008年フランス,129分
- 監督
- セドリック・クラピッシュ
- 脚本
- セドリック・クラピッシュ
- 撮影
- クリストフ・ボーカルヌ
- 音楽
- ロイク・デュリー
- 出演
- ジュリエット・ビノシュ
- ロマン・デュリス
- ファブリス・ルキーニ
- アルベール・デュポンテル
- メラニー・ロラン
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元ダンサーのピエールは心臓病で余命わずかといわれ、姉に連絡する。姉のエリーズはピエールを心配して3人の子供とともにピエールと同居することにする。歴史学者のロランは学生のレティシアに一目惚れ、市場では別れた夫婦ジャンとロリーヌが今日も言い争いをする。
パリの市井の人たちを描いた群像ドラマ。群像ものを得意とするセドリック・クラピッシュらしいスタイリッシュな作品。
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余命数ヶ月といわれた青年が自室のバルコニーから眺めるパリ、その風景の中に現れた一人の美女、彼を助けるために子供たちとともに引っ越してきた姉、彼女たちを通して青年はパリ中とつながってゆく。
心臓病の青年ピエール、その姉エリーズ、エリーズが通い娘の同級生の両親も働く市場の人々、エリーズが働く福祉事務所にやってくる移民とその弟。ピエールの部屋のバルコニーから見えるアパルトマンに暮らす女子学生のレティシアは教授のロランにストーカーまがいのメールを送られる。
この作品を見て思ったのは男たちにとってはレティシアこそパリであるということだ。遠くからでも魅力を放ち、ひきつけて呼び寄せるが、最後には拒絶する。
女たちにはマルシェがパリなのかもしれない。華やかで色とりどりだが、その実はマルシェの男たちのように粗野でそれがまた魅力であると。
この作品は『パリ』という題名であるが、パリの姿が具体的に浮かんでくるわけではない。この映画を見ると、実際パリという街はとらえどころのない街なのかもしれないとも思える。観光客にとっては“花の都”だが、暮している人にはそうではない。移民も多いし、貧困も存在する。寛容なわけではないが偏屈というわけでもない。そのとらえどころのなさを群像劇によってうまく表現していると思う。最後の嬉しい裏切りもいい。
クラピッシュの魅力は被写体との距離のとり方にある。基本は、被写体の感情がにじみ出るクロースアップよりも感情を推し量りうるバストサイズ。この作品では俯瞰ショットが多いが、それはバルコニーから街を眺めるピエールの視線。そのようにカメラがなぞる視線を持つ登場人物の感覚を丹念に再現して見ている側と見られている側の両方の感情を見るものに伝える。
それが最もよく表れていたのがロランがセラピーにかかる場面だろう。基本的にはロランとセラピストの話している側のバストショットなのだが、そのサイズは微妙に変わり、発せられる言葉とともに感情を伝え続ける。
そして余命わずかという主人公のピエールとの間にもある程度の距離をとる。命がわずかだという悲惨さを前面に出すのではなく、それをある程度の距離から眺めさせることで、それを客観的に考える余地を残す。もし自分が余命わずかだったら何をするか、今まで当たり前だと思ってきたものがどう見えるか、それを観るものに考えさせるのだ。
あなたは、余命が数ヶ月といわれたとき、何をしますか? 私はこの映画を観てひとつ気づいたことがありましたが、ここには書きません。 そういうきづきを大事にしなさいというのがこの映画のメッセージとも思えるので。