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スペース・ツーリスト

商業化する宇宙、それでも夢は残っているか?
★★★★-

2010/10/28
Space Tourists
2009年,スイス,102分

監督
クリスティアン・フライ
撮影
ペーター・インデルガンド
音楽
エドワルド・アルテミエフ
ヤン・ガルバレク
スティーヴ・ライヒ
出演
アヌーシュ・アンサリ
ジョナス・ベンディクセン
ドミトル・ポペスク
 チャールズ・シモニー
preview
 宇宙から投下されたカプセル、その中から出て来たのは女性初の宇宙旅行者アヌーシャ・アンサリと2人の宇宙飛行士。その2週間前、マグナムの写真家ジョナス・ベンディクセンはそのロケットを打ち上げた基地のあるカザフスタンの都市に来ていた。彼がそこでみたものは…
夢の宇宙旅行を成し遂げた女性実業家、宇宙開発跡地を撮る写真家、宇宙への夢に挑戦する若者を追ったドキュメンタリー。
review

 写真家ジョナス・ベンディクセンの目前に広がる光景はまるで廃墟だ。かつてはたくさんの人が住んだであろう団地の窓はレンガで塞がれ、公園のロケットの模型は錆びゆくに任されている。しかし、ここは廃墟ではない。近くにはいまも使われているロケット発射基地があり、その基地から女性初の宇宙旅行者アヌーシャ・アンサリが旅立つのだ。

 アヌーシャのほうは子供の頃からの夢であった宇宙への旅を目前にしている。その費用は1000万ドル、ロシアはそのお金で打ち上げ費用の約半分を賄っているのだという。ジョナスが訪ねた人々は、宇宙船の残骸を拾ってスクラップにして売るのだという。

 映画は宇宙へと旅だったアヌーシャと残骸が落ちてくるのを待つ人々の対比で進んでゆく。無重力空間で宇宙食を食べるアヌーシャ、残骸のそばでタンクの残骸の鍋で料理をする人々。そんな感じだ。

 この映画が素晴らしいのは映像である。前時代の宇宙基地とその周囲の工業団地の廃墟はインパクト十分、そこにはソ連の特徴的なデザインが多数施されている。最新式のロケットソユーズを運ぶのはレトロな機関車、打ち上げ場のエレベータも時代がついている。そのレトロな感じが何ともいい。宇宙というとSFの世界、未来的な映像をついつい想像してしまうが、ここに登場するのは非常にアナログで前時代的ですらある光景だ。その極めつけは博物館のような所で、昔の宇宙服やらコンピュータが展示してあって、それがもう本当にいい。

 ということで、私はすっかり映像の虜になってしまったわけだが、この映像に引き込まれる人は少なくないと思う。アナログで巨大な工業製品というのは何とも言えない魅力があるものだから。

 それはさておき、この作品は宇宙と宇宙計画について考える映画でもある。アヌーシュは宇宙に夢を抱き続け、xPrizeというコンペで民間の宇宙船開発を支援する。自分のような体験をより多くの人ができるようになるために投資をするのだ。

 そこで登場する最後の主人公がルーマニアでロケットの研究をしているドミトル・ポペスクだ。彼はアヌーシュが主催したXpirzeに続いて、googleが実施した月面ロケットのXprizeにも応募し、ロケットの開発を進めている。彼の宇宙への情熱はアヌーシュに負けない。しかも彼はお金を儲けて宇宙旅行を買うのはつまらないから、自分で宇宙船を作りたいと考える。

 ただ、ここで問題にされるのは、宇宙旅行に焦点が当たっているために、宇宙計画が商業化されてしまうことへの懸念だ。宇宙にロマンを抱く億万長者が宇宙計画にお金を出すことで、宇宙旅行は確かに私たちに着実に近づいて来ている。そして、果たしてそれはいいことなのかどうなのか。

 その是非についての結論は語っていない。貧困撲滅とかもっと別のことにお金を使ったほうがいいという人もいるだろう。でも、私は宇宙計画にはお金を使って欲しいし、宇宙にだって行きたい。宇宙は人類にとってのフロンティアである。宇宙開発によって具体的に人類の暮らしがよくなるかどうかはわからない。しかし人類はフロンティアを探索し続けることによって様々な新たな武器を手にして来た。アヌーシュは夢は願い続ければ叶うという。人類にとっての夢とは常にフロンティアなのだ。だから否定的な面があったとしてもフロンティアに向かって行くべきだと私は思う。

 昔のものの味わい深さとフロンティア精神、その両方が共存している所がこの映画は素晴らしい。個人的にはすごく好きな作品だ。

Database参照
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国別・年順: スイス

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