
ベンダ・ビリリ!~もう一つのキンシャサの奇跡





2010/11/4
Benda Bilili!
2010年,フランス,87分
- 監督
- フローラン・ドゥ・ラ・テューレ
- ルノー・バレ
- 撮影
- フローラン・ドゥ・ラ・テューレ
- ルノー・バレ
- 音楽
- スタッフ・ベンダ・ビリリ
- 出演
- スタッフ・ベンダ・ビリリ

2004年コンゴの首都キンシャサで出会ったのは手製の車椅子を押して集まり夜毎にセッションを繰り返すバンド“スタッフ・ベンダ・ビリリ”。そのサウンドに衝撃を受けたフローランとルノーはCDリリースを企画するが、予想外に難航し5年もの歳月がかかることに。その間もメンバー達はシェルターや路上で厳しい毎日を送る…
厳しい状況でも明るさを失わずバイタリティあふれる音楽を演奏し続けるベンダ・ビリリに痺れる!音楽ドキュメンタリーの傑作!


この作品を傑出したドキュメンタリーにしている要素は、音楽の素晴らしさ、社会問題を見つめる世界的な視点、5年という歳月、の3つだと思う。そして、その3つの要素すべてをまとめるのが、登場人物の“ロジェ”だ。
スタッフ・ベンダ・ビリリはキンシャサの障害者シェルターで暮らすパパ・リッキーを中心としたバンドで、そのメンバーの多くも障害者だが、彼らはストリートで暮らす子供たちに楽器を学ばせたり、車椅子を押させたりすることで子供たちと緩やかなつながりを作ってもいる。
そんなスタッフ・ベンダ・ビリリのサウンドにほれ込んだフランス人がCD化しようと奔走することで物語が展開していくわけだが、その過程で、ストリートに暮らす少年の一人ロジェがメンバーに加わる。ロジェは空き缶と竹の間にギターか何かの弦をくくりつけた一弦楽器サトンゲの名手で、音楽で食べていこうとスラムの家を飛び出してストリートで暮している。
このロジェの奏でるサウンドはベンダ・ビリリに大きなインパクトを与え、同時に彼の存在は貧困とストリートキッズという大きな社会問題を象徴し、そしてこの映画がとらえる5年という歳月で彼は大きく成長し、変化する。5年という歳月で少年から青年へと成長する彼の姿はこの映画の縦糸となって観客を捕まえる。
もちろん、ロジェ以外のメンバーも貧困、障害といった社会問題の体現者である。しかも、レコーディングがはじまったところで不幸な事件に襲われ、メンバーの多くがストリートでの暮らしを余儀なくされることになる。その厳しい現実が語りかけるメッセージは強烈だ。
それでも、彼らは明るさを失わず、音楽にメッセージを込め、発信し続ける。その彼らのバイタリティには感服するしかないし、そんな彼らを応援するしかないという気持ちにさせられる。しかも彼らは受身でも卑屈でもない。彼らは音楽で成功することに対して非常に野心的で自信を持ってもいるのだ。しかしおごることもなく、メンバーや家族や同じ境遇の人々に対して公正である。
それが本当にすごいと思う。映画の終盤では彼らは成功し、ヨーロッパ各地でライブをするようになる。いろいろなものを手に入れ、これまで見たこともないようなものを目にする。それでも彼らは変わらない(ようにみえる)。
物語はこれで終わるわけではない。これからの彼らにはこれまでとは違った厳しい境遇が待っているだろう。でも、彼らならそれを乗り越えてまた素晴らしいサウンドを私たちに届けてくれると信じられる。
いくら書いても言葉が足りないような気がするほどに彼らのサウンドとバイタリティは圧倒的だ。本当に多くの人に観て欲しい作品。

