しあわせの隠れ場所





2010/11/9
Blind Side
2009年,アメリカ,128分
- 監督
- ジョン・リー・ハンコック
- 原作
- マイケル・ルイス
- 脚本
- ジョン・リー・ハンコック
- 撮影
- アラー・キヴィロ
- 音楽
- カーター・バーウェル
- 出演
- サンドラ・ブロック
- クィントン・アーロン
- ティム・マッグロウ
- キャシー・ベイツ
- リリー・コリンズ
- ジェイ・ヘッド

私立のキリスト教学校に突然連れてこられた黒人少年ビッグ・マイク、アメフト部のコーチは彼の運動能力に注目して入学させる。ある夜、裕福な各人家庭のリー・アンはそのビッグ・マイクが夜道を凍えて歩いているのを見つける。彼を自宅に招いたリー・アンは彼の優しさに打たれ、息子のように育てようと決める…
NFLで活躍するマイケル・オアーの感動の実話の映画化。本当に実話かと思えるほど感動的。世の中捨てたもんじゃない。

巨漢で運動神経抜群だけれど、頭のほうはちょっと弱い高校生が運動選手としての才能を見出され新たな人生を歩み始める。まあ、よくある話といえば話だけれどこれは実話、しかも彼を世話し、彼の才能を育むのは本当に偶然に出会った他人だというところが少し違う。
この映画を見始めたとき、実話だということはすっかり忘れていて、ちょっと話がよくできすぎてるなぁなどと思ってしまったのだが、それくらいよくできた話だ。実話であることで逆に余計な波乱がなく、落ち着いた感じで話が進んだのもよかったのかもしれない。マイケルとリー・アン、そしてふたりを取り巻く家族の“真心”と言うものが伝わってきて感動を呼ぶ。
まだ小学生くらいのSJはともかく、思春期の娘コリンズとの間には軋轢のようなものが産まれそうなものだが、そういうこともない。これがフィクションなら思春期ならではのいじめの問題なんかも大きなトピックとして入れ込まれそうな感じだが、それがないのが逆にリアルで、本当に「世の中捨てたもんじゃない」と思った。
同時にこの映画が提示するのはアメリカの貧困と格差の問題だ。マイケルと同じ境遇で育った若者の中には、麻薬に手を染めギャングの仲間となる者も少なくない。その一番の要因は貧困だ。マイケルも麻薬中毒の母親から引き離されて里親のもとを転々とし、時にはホームレス生活を余儀なくされる。そんな食べるものもろくにない生活の中でいったいどうやって希望を見出せばいいのか。
しかも、リー・アンがマイケルの後見人になるために社会福祉局を訪れると彼は「州の保護下にある」といわれるのだ。その意味は州の許可があれば後見人になれるという意味だが、その一方で彼は州の保護下にあるにもかかわらず食うや食わずの生活を強いられているということだ。これのいったい何が“保護”なのか。
このことは、アメリカ社会の社会保障制度の破綻(というかそもそも整備されていないに等しい)と、貧富の差を解消するのが富者による“善意”しかないということを示してしまっている。そして、その“善意”は恣意的であったり気まぐれであったりするものだ。マイケルが貧困から這い上がることができたのはその才能によるものだが、それ以上に彼には運があったと言わざるを得ない。
アメリカのNFLで活躍するプロ選手というのは本当に圧倒的な運動能力を持っている。マイケル・オアーには類まれな才能があった。しかし、彼に匹敵する素質を持つもののどれくらいが貧困のふちから這い上がれずにその才能を無に帰してしまったのか、そのことを考えさせられる。
この話は本当にいい話だ。しかしその背後にはアメリカ社会のひどい不平等がある。それを一体どう考えればいいのか、私にはまだわからない。