光の旅人 K-PAX
2003/1/20
K-PAX
2001年,アメリカ,121分
- 監督
- イアン・ソフトリー
- 原作
- ジーン・ブリュワー
- 脚本
- チャールズ・リーヴィット
- 撮影
- ジョン・マシソン
- 音楽
- エド・シェアマー
- 出演
- ケヴィン・スペイシー
- ジェフ・ブリッジス
- メアリー・マコーミック
- アルフレ・ウッダード
駅で起きた引ったくりの現場に居合わせた男は自分はK-PAX星から来た宇宙人だと語り、プロートという名前を名乗った。ただの精神病者だとして病院に収容していたが、改善が見られないためパウエル医師のもとに送られる。そこで彼はバナナを皮ごとかじったりする一方で、K-PAX星と天文学に関する詳細な話をし、天文学の専門家さえ知らないことまでを語った。果たして彼は本当の宇宙人なのか、それともやはり精神病患者なのか…
宇宙人かもしれないという設定がなかなか面白く、ケヴィン・スペイシーの熱演も光る佳作。もっとSFっぽいのかと思ったらまったく普通のドラマだったのが意外。
よくある話というか、精神病者とされる人を扱った映画はあまたあり、そのような人が不思議な力を持つという題材もあまたある。この映画でもプロートは一緒に入院している人たちの心を癒し、パウエル医師までも癒そうとする。ただそれだけなら、よくある映画で終わってしまうが、この映画はそれが精神病者の特殊能力なのか、それとも宇宙人なのかというサスペンスを織り込みながら語るところが面白い。
感動ものの物語と結末がわからないサスペンス、この二つをうまくあわせてそれぞれを薄める。薄めるというとあまり印象はよくないけれど、この映画の場合は全体を薄めることによってひとつの世界が出来上がり、全体として「癒し」になるようなほんわかとした雰囲気を作り出しているので、これはこれでいいと思える。
これを支えるのはやはりケヴィン・スペイシーの演技。『アメリカン・ビューティー』なんかを見ても、それほど演技派!という感じはしなかったが、この映画では彼の演技力を全面的に利用して、それを前面に押し出し、映画の目玉にまでしている。特殊な演技ではないけれど、自然でしぐさや表情でうまく語っている。このあたりはなかなかうまい。
あとは、細かな演出もすごいというほどではないけれど、うまく効いていて、映画の前半でプロートをしたから捉えるカットが多かったりするのなどは、うまく宇宙人である彼のキャラクターを演出している。
という感じで映画のどの要素もうまく及第点を突破しているという感じなわけですが、もちろん難点もあります。一番目に付いたのは、脇役のキャラクターの貧しさ。ケヴィン・スペイシーとジェフ・ブリッジス以外はちょっと物足りない、というか悲しい。
そもそもキャラクターの設定からして、精神病院のほかの医師たちは本当に医者なのかというほど精神病患者に対する配慮を欠いているし、なんかあったら抑制したり薬を打ちゃあいいと思っている、というのはあまりに時代遅れの定型的なキャラクター過ぎる。
それはプロートと一緒に入院している患者たちにも言える。一瞬出てくるだけならば、わかりやすさとして許されるだろうけれど、この映画では準主役とも言える患者たちが余りに典型的な患者過ぎる。「精神病院」といってイメージする精神病院そのままのところに、「精神病患者」といってイメージする精神病患者たちがいる。これはあまりにあまりなんじゃないの?
といえば、ハロルド医師の家族もまたあまりに定型的。貞淑な妻と無邪気な子供。それでいいのか? そんな単純化されたイメージですべてを描いてしまっていいのか? そんな疑問が浮かびます。
そういった固定化されたイメージを拭っていけばなかなかいい映画なのだと思います。