ハルク
2004/2/18
The Hulk
2003年,アメリカ,138分
- 監督
- アン・リー
- 原作
- ジャック・カービー
- スタン・リー
- 脚本
- ジェームズ・シェイマス
- マイケル・フランス
- ジョン・ターマン
- 撮影
- フレッド・エルムズ
- 音楽
- ダニー・エルフマン
- 出演
- エリック・バナ
- ジェニファー・コネリー
- サム・エリオット
- ジョシュ・ルーカス
- ニック・ノルティ
科学者のバナーは軍の研究所で人間の免疫力を高め、すぐに傷が完治するような方法を編み出そうとしていたが、それが完成に近づく直前、軍により計画は中止され、自らの体を実験台にする。そして、息子が生まれ、息子が育っていくうちに彼は自分の息子が以上であることに気づく。そして、治療法を研究してるさなかまたしても軍に阻止され、彼は実験室を爆破することにするが…
マーヴェルの人気コミックのひとつ「超人ハルク」の映画化。マーヴェル原作の映画は『X-メン』『スパイダーマン』と痛快な内容でヒットを飛ばしてきたが、この作品は「陰」の部分が描かれているために、大ヒットとは行かなかったようだ。
これは非常に意欲的な映画であると思う。まず主人公のハルクは単純なヒーローでも単純な悪役でもない。『X-メン』のヒーローたちの「陰」の部分を集めたような暗いくらいヒーローなのである。そのようなヒーローを描くことは非常に難しい。彼はヒーローであるけれど、正義の味方ではない。怒りによって超人に変身するが、やることといえば愛する人を守ることだけであるのだ。彼はヒーローであるけれど、実は何もしない。あるいは、彼自身ヒーローであると思っていないし、ヒーローになりたいとも思っていない。何か特別なことをとしたいとは思っていない。ただ彼のあずかり知らぬところで超人的な力を授かってしまい、その力のために周囲が騒ぎ立てているだけなのだ。
それは完全な悲劇である。はじめから終わりまでただただ悲劇なのだ。原作は読んだことがないのでわからないが、この悲劇から生まれたヒーローであるハルクは、本当にヒーローになるのではないか、と思う。そうでなければコミックにはならない。この映画でもハルクは彼を殺そうとする人々を逆に救おうとする。そのヒーローらしさが前面に発揮されれば、ちゃんとしたヒーローものになるわけだ。
だから、この映画はそんなハルクがヒーローになるその始まりを描いたに過ぎないと考えることもできるのかもしれない。シリーズ化を狙っているのかどうかはわからないが、本当のヒーローものになるのはこの映画が終わった後の話なのだろう。しかし、そのように考えた上でも、この映画の後の話を考えるのは難しいだろう。この物語は決して「陽」へとは変化し得ない物語なのである。そのあたりがアメ・コミ原作の子供向けと考えられがちな映画としては非常に意欲的なのだと思う。
もうひとつ意欲的といえば、画面の作り方である。この映画は異常なほどに画面を分割する。二分割ならまだしも、3つにも4つにも分割していき、そのそれぞれが動きさえする。基本的には同じ時間に同じ場所で(あるいはつながった場所で)起こっていることを違う角度から描いているだけなので、混乱をきたすものではないが、目が回りそうになる。映画全体が(特に前半が)スピード感を欠いている中でこの画面分割を使うことで何とか観客を飽きさせないテンポを生み出しているといってもよいだろう。
それにしても、この画面の割り方は、見た目はまったくアメリカンコミックの紙面である。別に左から右へ、上から下へと駒が進んでいるわけではないので、映画自体がコミックを模倣しているというわけではないのだが、画面の見た目だけを見ると、それがコミックであるということを意識せずに入られない。
このビジュアル的な点だけでなくても、この映画は非常にコミックに忠実というか、コミック作り出す世界観を映画で再現しようと腐心しているように思える。先ほどスピード感を欠いていると書いたが、そのスピード感の欠如というのは、映画が冗長というわけではなくて、何かが起きる前の引き伸ばしの長さにあるのだと思う。それはコミックで、決定的な出来事が起きる前にほとんど無意味とも思えるコマが何コマも続くような(たとえば、「キャプテン翼」で、シュートを打ってからゴールが決まるまでで一話終わってしまうような)そんな時間の使い方であるのだ。つまり、この映画を見る人がコミックを読むのと同じ体験をするようにこの映画は構築されているといっていい。そのあたりはなかなか意欲的だと思う。
でも、個人的な意見を言えば、だったらコミック読めばいいんじゃないの? と思う。