ハリウッド★ホンコン
2004/4/27
Hollywood Hong-Kong
2001年,フランス=香港=日本,108分
- 監督
- フルーツ・チャン
- 脚本
- フルーツ・チャン
- 撮影
- オー・シンプイ
- 音楽
- ラム・ワーチュン
- 出演
- ジョウ・シュン
- ウォン・ユーナン
- ホウ・サイマン
- レオン・ツィーピン
- グレン・チン
香港はダイホム村、すぐそばに“ハリウッド”と呼ばれる高級マンションがあるバラック街で焼豚屋をやっている父と息子2人の朱一家、そこに不意にやってきた東東という女の子は下の息子タイと仲良くなる。しかし、それは朱一家の近所に住む強がインターネットで知り合った女の子でもあって…
『リトル・チュン』のフルーツ・チャンがいつものように香港を舞台としながら、不条理な映画とした。かなりか見ごたえのある映画ではあるが、面白いかどうかは観る人の感性によって大きく変わると思う。
まずの感想は、何ともとらえどころのない映画である、ということだ。すごくアジアっぽいごちゃごちゃした感じと、これまたアジアっぽい淡々とした感じ。その2つが同居しているけれど、それで何かがどうなるかというと、そういうわけでもない。奇妙なことは起こるけれど、それはただ奇妙だというだけで、そこから何かが浮かび上がってくるわけではない。
一応物語はちゃんとあるわけだけれど、その物語も細部はあいまいで、普通に撮ってしまえば30分位で終わってしまうような話。それをグッと引き伸ばし、そこにいろいろなエピソードと風変わりな風景を詰め込んで、頭で捉える物語であることをやめて、体で感じるべき断章にしたという感じである。だから、その感覚が自分の感性にフィットすれば、こんなに心地よい映画はないはずだ。そういうグッとつかまれる感覚がなければ、なんとなくあやふやなまま映画が終わってしまう。
しかしそれでも、そのあやふやなところはとてもいいと思う。すべてが現実ではあるのだけれど、その現実というものが非常に悪夢的というか、地に足がついていない感じがする。どこか全体が白昼夢であるかのような感じ、悪く言えばボヤンとしているわけだけれど、ふわふわしていて気持ちいいととることもできる。
なんだかよくわからないことが起こっていて、面白いのかつまらないかもよくわからないけれど、なんとなしに気持ちいい。映画は気持ち悪いんだけど、それは何か遠くにあるもののような気がして、なんとなしにふわふわしていて気持ちがいい。そんな感覚にとらえられることもまた確かである。
それにしても、映画のエッセンスが『ドリアン・ドリアン』とほとんど変わらない。同じ物語の書き換えでしかない。それが描きたい物語であるのなら仕方がないし、スタイルを変えながら同じことを繰り返し描くというのもひとつの方法ではあるけれど、このフルーツ・チャンという監督の特性はそういうものではないように思える。
この監督の映画を見ると、その面白さはスタイルにあるというよりはエッセンスのほうにあるような気がするから、がんばって異なる物語を搾り出して、同じスタイルで描いてくれたほうが、作品を見てみたいという気持ちになる。 この作品のスタイルは彼にとっておそらく一種の試みであり、ひとつやりたかったことをやったという感じなのだろうが、どうも日常に肉薄した不気味さというのを描ききれていないという気がしてしまう。
日常生活を送っているとふと出会う、不気味なヌルリとしたもの。それがこの映画には描かれているのだと思うけれど、そのヌルリとした感触を味わえるまでにリアルではなく、そういうものを描きたいんだなぁ、と思わせるにとどまっている点にこの映画の弱さを感じてしまう。
僭越ながら、これまでなかなか面白作品を取ってきたフルーツ・チャンがひとつの壁にぶち当たったと言ってもいいのかもしれないなどと思う。この壁を突き破って、物語の力強さに不気味さが付け加わって、うまく混ざり合えば、すごく面白い作品が生まれそうな気もする。