ブラック・ダイヤモンド
2004/8/31
Cradle 2 the Grave
2003年,アメリカ,101分
- 監督
- アンジェイ・バートコウィアク
- 脚本
- ジョン・オブライエン
- チャニング・ギブソン
- 撮影
- ダリン・オカダ
- 音楽
- ジョン・フリッゼル
- デイモン・“グリース”・ブラックマン
- 出演
- ジェット・リー
- DMX
- マーク・ダカスコス
- アンソニー・アンダーソン
- ガブリエル・ユニオン
- トム・アーノルド
仲間とともに宝石商の金庫に押し入りだ屋を強奪するフェイト、しかし仕事を終える直前、謎の男から電話が入り、「クライアントが裏切った、“黒いダイヤ”だけはおいていけ」と警告される。その謎の男は東洋人のスー、彼はフェイトの仲間のひとりからダイヤを奪うことに成功するが、そこにはただのダイヤしか入っていなかった…
ジェット・リーとDMXが共演したクライム・アクション。監督のアンジェイ・バートコウィアクはカメラマンとして長く活躍し、ジェット・リーのハリウッド初主演作『ロミオ・マスト・ダイ』で監督デビューし、今作が3作目。
監督3作目にして、ジェット・リーの主演が2回目、もう1本はスティーブン・セガールの『DENGEKI 電撃』と、どうもマーシャル・アーツが好きらしいこのアンジェイ・バートコウィアク。あるいはプロデューサーのジョエル・シルヴァーが彼にマーシャル・アーツ系の映画を取らせているのか。
とにもかくにも、実は彼はB級な監督である。前2作でもその傾向はあったが、この作品でそれがまったく明らかになる。俳優たちはくそ真面目にアクションしているのだが、監督は実はそんなことに意味はなく、どんどん悪ふざけしていく。悪ふざけというのは不必要なエピソードやショットが多いということだ。この不必要さが映画をB級にしていく。
最初はかなりまっとうなクライム・サスペンスのように始まる。金庫の扉をロケット・ランチャーで破るというところにすでにB級の匂いはするが、とりあえずジェット・リーのアクションも炸裂して、まっとうなアクションのようなのだ。
しかし、まずフェイトの仲間たちが典型的なB級アクション的なキャラクター立てであることに気づく。スマートでリーダーシップのあるフェイト、職人的に仕事をするマイルズ、三枚目で様々な仕事をこなすトミー、紅一点の美女ダリア、この4人がチームとなって個性を発揮するというのはひとりのスターを中心に回らないB級アクション映画(あるいはTV)の典型的な作り方である。
しかし、この映画にはジェット・リーがいる。結論を言ってしまえば、ジェット・リーはいらない。ジェット・リーはB級もこなせる俳優だが、この映画ではB級の位置まで降りてこず、ひとり正当なハリウッド映画を演じてしまっている。『ロミオ・マスト・ダイ』は完全にジェット・リーの映画で監督のB級テイストは隠れてしまっていて、それがある意味では功を奏したのだが、この作品ではそのジェット・リーが逆に邪魔者になってきてしまっている。
だから、ジェット・リーのファンからすればこんなひどい映画はないだろう。せっかくのジェット・リーのアクションが物語の添え物、映画を華やがせるものに成り下がってしまっているのだから。それでもジェット・リーは見事なアクションを見せ、いつものように攻撃してくる相手のキックやパンチをすさまじい速度で受け返す。しかし、そのせっかくのアクションも細かいショットに分解されてその迫力が奪われてしまっているのだ。
つまり、この映画は中途半端なのだ。ジェット・リー主演の本格アクション映画でもなく、DMX主演のB級アクション映画でもない。私の個人的な趣味としては完全にB級アクション映画にしてしまって、映画のエピローグの部分で言われているようにトミーとアーチーを(影の)主役にしたほうがよかったんじゃないかと思う。そうすれば、こんなむずがゆいような終わり方はせず、「世界を救う泥棒集団」みたいな感じでシリーズかも出来たかもしれない。
それにしても、そのエピローグの前のあのラスト・シーンはどうだろう。私はこの監督が突き抜けたB級映画を撮りたいんだという意志を表明しているように見えた。だってありえないよあんなの(そのだいぶ前からまったくありえないことばかりなんだけどね…)。