カルメン純情す
2004/9/27
1952年,日本,103分
- 監督
- 木下恵介
- 脚本
- 木下恵介
- 撮影
- 楠田浩之
- 音楽
- 黛敏郎
- 木下忠司
- 出演
- 高峰秀子
- 若原雅夫
- 淡島千景
- 小林トシ子
- 斉藤達雄
- 東山千栄子
- 三好栄子
- 北原三枝
- 坂本武
ストリッパーのリリィ・カルメンは男に捨てられ子供を抱えて帰ってきた親友の朱実をアパートに居候させるが、赤ん坊を抱えていては生活できないと、赤ん坊を捨てに行く。しかし、母心を取り戻した朱実は捨てたばかりの赤ん坊を取り戻しに行き、カルメンはその家の主人である芸術家の須藤にモデルをやらないかと言われてその気になってしまうが…
国産初の総天然色映画『カルメン故郷に帰る』の続編で、前作よりさらに豪華なキャストでカルメンをめぐる物語が展開される。基本的にはコメディだが、ほろりとさせたり考えさせたり、これぞ映画!という仕上がり。
前作は国産初の総天然色映画ということでどうも色へのこだわりがあり、あとはスター高峰秀子を中心とした映画という感じでまとまっていた。もちろん高峰秀子はすばらしく、そこでがっちりと作り上げたカルメンというキャラクターの面白さがこの作品につながったことは明らかだが、私はこの続編のほうが面白いと思う。
それはこの映画が高峰秀子というスターひとりの映画ではなく、ある意味で群像劇のようになっているというところに大きく大きく負っていると思える。それによって映画のプロットにひねりが加わり、多彩なキャラクターを登場させることによってにぎやかしい笑いを生むことも出来たのだ。
前半はいかにも軽妙なコメディという感じで、前作で作り上げたカルメンのキャラクターを前面に押し出して、小気味よく楽しい映画になっている。赤ん坊を捨てるというシーンもまったく悲哀を感じさせることは無く、妙に楽しげに歌うカルメンの「涙を押し殺して…」という言葉はいかにも嘘だ。カルメンは赤ん坊を捨てたくて捨てたくて仕方が無い。それがうまくいってうれしくて仕方が無いのだが、しかし朱実が心変わりして赤ん坊を取り戻すとそれを喜んで涙してしまったりする。そのあたりのちょっと頭が足りないけれど素直なキャラクターというのがとてもいい。
その陽気な展開はしばらく続き、観客を笑わせ和ませ、明るい気分にさせる。このあたりはやはり高峰秀子の才能によるところが大きく、前作に続いて高峰秀子の映画かと思わせるが、この時点ですでに淡島千景と北原三枝と脇にも光る女優が登場していて(北原三枝はこれがデビュー作)、面白い展開になっていくのではないかという予感もある。
そして、その予感は当たり、後半は高峰秀子に淡島千景に東山千栄子に三好栄子と濃いぃキャラクターがガチコンとぶつかってがらりと雰囲気が変わる。この後半で中心になるのはなんと三好栄子だ。個性的な髪型とファッションで選挙に出馬というなんとも不思議なキャラクターだがその彼女がプロットの中心にドカリと座ってしまうのだ。その結果カルメンの存在はなんだか影が薄くなり、なんだか変な展開になる。しかしその間も、カルメンがバイトということで変なコスプレをいろいろ見せて観客を楽しませる。
そして終盤はホロリとさせる。赤ん坊を抱いて堤防の上を歩くカルメンの姿はなんとも切ない。ロングの横からの姿だけで切なさを演じてしまうのだから、やはり高峰秀子というのはすごい役者なんだろう。
そしてさらに、この映画はそれだけでは終わらず、「再軍備」という政治的な問題にまで踏み込んでいくのだ。特にラストシーン(というかエピローグとでもいうべき風景と音楽とサブタイトルだけの部分)はまさにそれだけのためにあると言ってもいいようなシーンだ。
つまりこの映画は映画の始まりと終わりではすっかり違う映画になってしまい、しかしそれが案外スムーズでしかも面白いという稀有な映画なのである。
それにしてもこの映画、カメラがやたらと傾くのはなぜだろう。おかしな感じを演出していることは確かだが、果たしてそれだけなんだろうか? めまぐるしく変わっていく映画に統一感を与えるための演出だろうか?
変だけどなんか面白い。それはこの映画のすべてにいえることだと思う。