サラリーマン忠臣蔵
2004/10/20
1960年,日本,100分
- 監督
- 杉江敏男
- 原案
- 井原康男
- 脚本
- 笠原良三
- 撮影
- 完倉泰一
- 音楽
- 神津善行
- 出演
- 森繁久彌
- 池辺良
- 新珠三千代
- 東野英治郎
- 小林桂樹
- 夏木陽介
- 加東大介
- 司葉子
- 宝田明
- 有島一郎
- 三船敏郎
- 志村喬
- 山茶花究
- 久慈あさみ
- 三橋達也
- 草笛光子
赤穂産業の専務である大石はヨーロッパ出張の準備に大わらわ、浅野社長はアメリカ経済使節団の接待委員の会議に出席、その席上で接待委員長で丸菱銀行頭取の吉良と委員のひとり桃井とが口論になる。その夜、大石専務の壮行会が開かれ、大石は社長とその恋人で芸者の加代次とを結婚させようとするが…
東宝サラリーマン映画100本を記念して、忠臣蔵を現代のサラリーマン世界に置き換えて描いた痛快コメディ、社長シリーズの森繁久彌を中心に超豪華な配役でとにかく楽しい。
日本人なら誰でも知っている(と思う)忠臣蔵。なので、名前が大石、浅野、吉良、というだけで大体どういう話かわかってしまうわけだが、それを現代のサラリーマンに置き換えるとなると一体どうなることやら、という感じになる。しかも、この映画の場合は単純に置き換えるというのではなく、いろいろと工夫をこらして筋を練ってくるのだ。
ひとつは、惚れたはれたの話の多さ。中心にくるのは浅野社長の加代次との話だが、それ以外でも社長秘書の早野と専務の秘書で専務の運転手の妹の軽子、専務の息子の力と常務・大野の娘の小奈美と3組の恋愛模様が描かれる。その恋愛模様が主プロットである赤穂産業を中心とする陰謀に絡んでいくわけだが、それによってこの映画はかなり現代的な印象を与えることになる。
主プロットのほうは登場する人物も限られ、一種の企業陰謀ものの形式をとるのだが、その周辺では群像劇のごときものが繰り広げられ、それによってこの豪華キャストが生きるし、サラリーマン映画100本記念お正月興行というお祭り騒ぎにもフィットするし、そして何よりも本質的にコメディであるこのサラリーマン映画の主題にフィットするようになる。
この映画はコメディというほどに笑う場面があるわけではないが、喜劇であることは確かで、脇役に配されるエレベーターガールやらがこそっと面白いことをしたりもする。
そんな中でもやはり、池辺良や三船敏郎はどうもシリアスな雰囲気を醸し出してしまう。しかし、それは映画の雰囲気と外れるというものではない。彼らのような2枚目のスーパースターを起用することで、主プロットはシリアスな物語にしていくのである。
そして、そのシリアスな物語と喜劇的な面をつなぐのが森繁である。森繁は最初はどうも喜劇の側にいるように見えるが、しかし「大石」という名を背負っている以上、彼が吉良に対する復讐劇の主役となることは間違いないのだ。しかしそれでも、大石はなかなか立ち上がらない。その間の持たせ方が非常にうまい。何を考えているかわからない大石のキャラクターが展開を読みづらくするこのあたりがこの映画のオリジナルなところであり、さすがにこれまで100本も作ってきたサラリーマン映画らしいところである。
忠臣蔵、忠臣蔵、というところがどうしても気になってしまうが、やはりそれ以前にこの映画はサラリーマン映画である。忠臣蔵であるにもかかわらず、忠義やらなにやらのウェットな感情は持ち込まず、みなが個人的な感情で動くという、カラリとした高度成長期らしいモダンなドラマになっているのだ。
なんだかわからないけど面白いなぁ…