エブリバディ・フェイマス
2006/1/23
Iedereen Beroemd !
2000年,ベルギー=フランス=オランダ,95分
- 監督
- ドミニク・デリュデレ
- 脚本
- ドミニク・デリュデレ
- 撮影
- ウィリー・スタッセン
- 音楽
- レイモン・フェン・ハットフルネバルトゥ
- 出演
- ヨセ・デパウ
- エヴァ・ヴァンデルフフト
- ウェルナー・デスメット
- ヴィクトル・レーヴ
- テクラ・ルーテン
- ヘルト・ポルタール
ベルギーに暮らすジャンは素人の歌謡コンテストに出演し続ける娘マルヴァの才能を信じていたが、まわりは誰もそれを信じない。そんなジャンの勤め先が倒産してしまうが、ジャンはそれを家族に告げることが出来ず途方に暮れる。そんな時、ジャンはたまたまヒット歌手のデビーに出会う…
アカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされたベルギー映画。雰囲気はスコットランドあたりを舞台にしたイギリス映画に似ていて、渋みのあるなかなかいいコメディという感じ。
ベルギー映画と聞いて見始めはしたけれど、この親父ジャンのダメな感じといい、娘のでぶっちょ具合といい、街の風景の寒々しさといい、どんよりと曇った空といい、どっから見てもイギリス映画にしか見えない。それは片田舎を舞台にして、ダメ男を主人公としたイギリスのコメディが『フル・モンティ』を始めとしてあまりに数多く日本にやってきて、しかもそれらがどれもそれなりにおもしろい作品だったからだろう。それによってイギリスの片田舎のイメージは完全に作り上げられてしまったというわけだ。
そして、この映画もその雰囲気にピタリとはまり、しかもそれなりにおもしろい。まあ、考えてみれば、ヨーロッパのどこの国でも、田舎に行けばイギリスの田舎とそうは変わらないだろうということは予想がつく。しかも、この映画の舞台はベルギー、決して都会的とはいえない国の、しかも田舎のことだから、典型的なヨーロッパの田舎町の風景がここにあってもまったくおかしくない。
しかも、この田舎とイギリスの片田舎とにはあまりにに多くの共通点がある。例えば、その町が寂れた工場の町であること、比較的貧しいこと、アメリカ文化がかなり深く入り込んでいること、などである。それらの共通点が作り上げる似通った雰囲気がこの映画をイギリス映画のように見せるのだ。
だから、『フル・モンティ』のようなイギリスのコメディが好きならば、この映画もきっと気に入るし、なかなか質のいい作品でもある。ちょっと現実離れして入るが、プロットもよく練られていて、登場人物の少ないコンパクトな物語にしてはかなり展開に力があると思う。ハリウッド映画みたいに力みがなく、しかし飽きさせず、くすりとさせてくれ、ちょっと暖かくもなる。そんな“いい”作品である。
という感じで、そんなジャンルの作品の中ではなかなかいい作品ということで、何か特別素晴らしい点があるというわけではないのだが、イギリスの片田舎を舞台にしたコメディとは決定的に違う点もある。
それは「言葉」である。この映画でひとつのポイントとなっているフラマン語、フラマン語はベルギーの国語のひとつでオランダ語系の言語だが、ベルギーにはもうひとつフランス語系のワロン語という国語もあり、北部がフラマン語、南部がワロン語というように使用地域が分かれていて、それがひとつのアイデンティティのよりどころとなっている。だからこそ、映画の中でもことさらにフラマン語で歌ったりということが重視されるわけである。
しかし、映画を見ていると、その言語の中には多くの英語が混ざっている。それは単語だけではなく、テレビ番組が英語で放送されていたりもする。基本的に人種や言語が雑多なベルギーやオランダでは英語を話せる人が多く、そのために母国語にも英語が入り込んでいることが多いが、この映画はまさにそのような現象を描いているといえるだろう。
この映画はそのような言語環境の変化に対して、フラマン語というアイデンティティを喚起しようという狙いもあるのではないかと思える。そのようなメッセージをもった映画がイギリス映画に似てしまうというのは皮肉なような気もするが、日本でこの映画を見る私たちにとってはこの映画によって、ひとつベルギーについて知ることが出来るという意味ではおもしろい。