夢のチョコレート工場
2006/2/5
1971年,アメリカ,100分
- 監督
- メル・スチュアート
- 原作
- ロアルド・ダール
- 脚本
- デヴィッド・セルツァー
- 撮影
- アーサー・イベットソン
- 音楽
- ウォルター・シャーフ
- レスリー・ブリッカス
- アンソニー・ニューリー
- 出演
- ジーン・ワイルダー
- ピーター・オストラム
- ジャック・アルバートソン
- ロイ・キニア
ウィリー・ワンカのチョコレート工場はまったく人が出入りしない謎の工場。そのワンカが世界で5枚だけのゴールデンチケットで子供たちを工場に招待すると発表する。世界中の子供たちがそのチケットを探す中、ワンカの工場のある街に住むチャーリーは貧乏でめったにチョコレートなど買うことが出来なかった…
ロアルド・ダールのベストセラー児童文学「チョコレート工場の秘密」の映画化。原作に時代設定が近いのが2005年のティム・バートン版『チャーリーとチョコレート工場』と比べての強みか。
この物語はやはり原作がおもしろいから、どう映画にしても面白とは思うのだが、やはり『チャーリーとチョコレート工場』を見たからこの作品を観てしまうと、どうも印象は薄い。“夢の工場”のトリックも30数年の特撮技術(というよりはCG技術)の進歩に対抗すべくはなく、今見るとレトロなものに対するノスタルジックな想いが掻き立てられるというくらいの面白みしかない。これを夢の世界に誘う映像のトリックだと考えるならば現在には通用しないと言わざるを得ない。ただ、ウンパルンパはやはりおもしろい。もちろんバートン版のインパクトには負けるが、原作をこのように映像化するという発想はバートンに先んじており、バートンもこの作品を参考にしたのではないかと思わせる。
同じ原作ということでどうしてもバートン版と比べてみてしまい、そうしてみると、どうしても時代の違いが見えてくる。ただ、原作が書かれたのは1960年代であり、原作の感覚をそのまま映画化しているのはこの作品なのだともいえる。それは単にTVっ子などのモチーフにとどまるのではない。この作品とバートン版を比べて最も違っていると思えるのは実は作品のコンセプトだ。バートンの作品はあくまでも(子供を中心とした)観客を楽しませることを目的として作られているのに対し、この作品はいわば教育映画のように子供向けに教訓を与える映画として作られているのだ。
そしてそのメッセージはただひとつ「欲に駆られるとろくなことはない」ということだ。強欲はキリスト教の七つの大罪にも含まれるくらい歴史の長い“罪”であり、この作品はその強欲を戒めるものとして作られている。原作も基本的にはそのようなスタンスを取っているし、児童文学として書かれた原作のコンセプトはそのようにして子供に何かを言い聞かせるものであった。
しかし、現在ではそのような強欲に対する戒めという教訓が今ひとつ説得力を持たなくなってしまい、そのようなコンセプトが物語としての魅力を失ってしまった。もちろん現在でも原作を読めばおもしろい、教訓にもなるのだから、一概にそれが意味がないとは言い切れないのだが、現在の世の中を見ると今ひとつ説得力がないというのも否めないことだ。だからこそ、今バートン版のほうの少し複雑な物語のほうが魅力的であり、楽しく見ることが出来るのだ。
この作品を『チャーリーとチョコレート工場』と比べて見る分にはおもしろいが、出来ればこの作品を先に見たほうがどちらも楽しめるし、バートン版の現代的なおもしろさがよりよくわかるかもしれないと思った。