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ナイロビの蜂

星

2006/5/26
The Constant Gardener
2005年,イギリス,128分

監督
フェルナンド・メイレレス
原作
ジョン・ル・カレ
脚本
ジェフリー・ケイン
撮影
クレア・シンプソン
音楽
アルベルト・イグレシアス
出演
レイフ・ファインズ
レイチェル・ワイズ
ユーベル・クンデ
ダニー・ヒューストン
ビル・ナイ
ピート・ポスルスウェイト
preview
 ケニア、ナイロビ、英国の外務省に勤めるジャスティンは有人のブルームと飛行機で奥地へ向かう妻のテッサを見送る。しかし、翌日彼の元に妻が殺されたというほうが届く。彼は妻との出会い、これまでの生活を思い出しながら、妻の死の謎に迫ろうとする…
  スパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレの原作を『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレレス監督が映画化。社会的なメッセージもありながら純粋に感動できる作品でもある力作。
review

 この作品が取り上げるアフリカの問題、アフリカは世界に忘れられ、虐げられ、軽んじられているという訴え、それは間違いのない事実であり、その悲劇は観客を捉えて離さない。
  しかし、この作品はそのような社会的な問題を観客に訴えるために撮られたものではない。この作品において、そのアフリカとそれを取り巻く欧米の政府や企業というものはあくまでも物語の装置でしかない。イギリスでであった2人が結婚してアフリカに行く。そのアフリカという地で待つ現実はイギリスのものとはまったく違うものだ。その地で2人の関係は変化し、疑念が生まれる。そこで突然訪れる妻の死、その死は夫に妻との関係を考え直させる、本当に心から愛していた妻が何を考えていたのか、何をしていたのか、それを切実に知りたいと望み、そのためには全てをなげうつ覚悟をする。
  そして、それを調べ、知ってゆく過程で明らかになって行くのは、イギリスでもアフリカでも何も変わってなどいなかったということだ。二人の間の愛も、そして社会も。
  一見まったく異なるように見えるイギリスとアフリカという2つの社会、しかしその2つの社会は世界中の全ての社会も含めてつながっている。イギリスで安穏としていては見えないものがアフリカでは目前に明白なものとしてあり、眼を背けることができないというだけのことだ。それでもそれから目をそむけてしまった夫には、それを直視してしまった妻を理解することができなかった。そのために2人の関係もアフリカという“異質な社会”によって変化させられてしまったように見えてしまったのだ。
  しかしそれはあくまで見え方/見方の違いに過ぎなかった。外見上は異なっているとしても、根本的は同じもの、変わらぬものなのだ。社会も愛も。

 そして、この映画はそのことを実に見事に描く。まず、映像を駆使して“異なっている”ということを表現する。イギリスとアフリカの違いはまずその色の違いで表現するのだ。この作品の冒頭で印象的な湖のシーンの車と地面の赤茶色、この赤茶色がアフリカを象徴する色としてアフリカのシーンの大部分を支配する。これに対してイギリスを象徴するのは白である。イギリスの空の色やシーツの色をはじめとして、イギリスのシーンでは全ての映像が白っぽいトーンで統一されている。
  また、変化したように見えるジャスティンとテッサの関係をテッサの表情によって表現する。イギリスにいた頃のテッサの表情とアフリカでのテッサの表情、この表情の変化が感情が変化したという印象を観客に与えるのだ。
  そして、そのような印象を観客に与えた上で、物語としてサスペンスを用意する。妻の死という謎を追うジャスティンの立場に観客を置き、その謎解きに没頭させるのだ。そして、観客はそのスリリングな展開に引っ張られながら、外見上の違いのまやかしに気づかされる。異なっているように見えたものが実は同じもの、不変のものであったということに気づかされて行くのだ。
  そしてその結果明らかになった不変のものは悲劇的であり、感動的である。単純なお涙頂戴の感動ではなく、全身に力がみなぎるような感動、悲惨さやあたたかさといった単一の要素によって感情を揺さぶられるのではなく、複雑な要素がわれわれの意思に働きかけるのである。
  ジャスティンが湖のほとりで拳銃から銃弾を抜いたとき、私はグッと拳に力を込め、あごを上げて、アフリカの朱色に染まる空を眺めた。

Database参照
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監督順: 
国別・年順: イギリス

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