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ベストセラー

鴛鴦歌合戦

★★★.5-

2007/3/12
1939年,日本,69分

監督
マキノ正博
脚本
江戸川浩二
撮影
宮川一夫
音楽
大久保徳二郎
出演
片岡千恵蔵
市川春代
志村喬
香川良介
ディック・ミネ
preview
 江戸は日本橋の近くで傘張りで生計を立てる浪人の息子お春は隣に住む侍の浅井に惚れていたが、浅井には香川屋の娘おとみも惚れていて、さらには婚約者だという武士の娘藤尾まで登場。父親の骨董道楽で毎日麦こがししか食べられないお春は何とか浅井を自分のものにしようとするが…
  マキノ正博が7日間で仕上げた日本初のオペレッタ映画。とにかく奇妙で楽しい迷作の名作。
review

 なんだかニヤニヤしてしまう映画である。映画はお江戸日本橋を横一線になって歌いながら歩いてくる職人の集団ではじまる。その前を歩く町娘に歌で恋をささやいているのである。その歌はもちろんいわゆる純邦楽ではなく、あくまで流行歌である。時代劇の扮装と現代の音楽のミスマッチ、この変なおかしさから映画は始まる。
  そして、映画はずーっとそのまま進むのである。誰が出てきてもとにかく歌う。当時のアイドルである市川春代が歌い(あまりうまくはないが)、志村喬が歌い(ものすごくうまい。その美声を聞いたディック・ミネがテイチクに入るよう勧めたらしい)、ディック・ミネが歌う(もちろんうまり)。そして、なかなか歌わないので、歌わないのかと思わせた片岡千恵蔵も結局は歌う(意外にうまい)。
  そして、映画の大半は歌によって占められる。普通にセリフをしゃべる場面も多く、時間的なことを言えば半々くらいだと思うが、印象としてはほとんどずっと歌を歌っていたという感じである。
  この映画は日本初のオペレッタ映画といわれる。しかし、「オペレッタ映画」とはいったいなんだろうか。「オペレッタ」とはそもそもは台詞と踊りのあるオーケストラ付きの歌劇のことを示す。基本的に軽い喜劇で主にヨーロッパで19世紀に流行した。これが「オペレッタ映画」となると、日本映画に限られた話になり、セリフに音楽が加わった“時代劇”をさすことになる。日本でトーキー映画が定着した1930年代、セリフに音楽を加えた映画が盛んに作られたが、現代劇の場合はこれをミュージカル映画と呼び、時代劇の場合はオペレッタ映画と呼んだ。そして、その最初の作品といわれるのがこの『鴛鴦歌合戦』なのであるが、オペレッタ映画として最も有名なのは『狸御殿』シリーズだろう。このシリーズは『鴛鴦歌合戦』と同じ1939年に『狸御殿』が木村恵吾監督によってはじめて作られ、戦後までシリーズが続き、2005年にはそのシリーズを発展させる形で鈴木清順監督が『オペレッタ狸御殿』を撮ったくらいである。
  そんなオペレッタ映画の特徴はとにかく楽しくあれということだ。『
狸御殿』シリーズが基本的に正月映画として作られたことからもわかるように、オペレッタ映画はとにかく明るくて楽しい。この『鴛鴦歌合戦』もわけがわからないがとりあえず楽しさは伝わってくる。それはもちろん音楽と歌の持つ力によるところが大きいだろう。音楽を聴き、歌を聴き、あるいは歌を歌うことは人を楽しませる。沈んでいた気持ちも晴れるというモノだ。その力を利用したのがオペレッタ映画なのである。

 そのような意味では、マキノ正博が日本で最初のオペレッタ映画(公開は実は『狸御殿』のほうが早いが、本格的なオペレッタ映画としては最初と言われる)を作ったというのは当然のことだったように思える。とにかく観客を楽しませることを考え、そして同時にトーキーの申し子であったマキノがオペレッタ映画に至るのは必然だったといえるだろう。マキノは東京でトーキー技術について学んでいたとき、ビール会社の依頼で銀座に百人からの芸者を集めて躍らせて日本初のコマーシャルフィルムを撮ったことがある。現在『泡立つ青春』と呼ばれるこのCM(当時の題名は『泡立つビール』)が作られたのは1934年、『鴛鴦歌合戦』から5年をさかのぼる。
  この時すでに、映像と音楽の融合を考えていたマキノは『弥次喜多道中記』などで研鑽を積み、7日間で1本映画を作らなきゃならないという窮地に陥ってこの映画がポンと出てきたわけだ。その意味ではすごくおもしろい。
  映画としてはプロットは四コマ漫画程度のものだし、「んなアホな~」という展開の連続である。しかし、映画を見進めて行くと、いつもほとんど同じに聞こえるイントロが始まったとたんになんだか楽しくなってきてしまうから不思議だ。スクリーンの上では歌っているまわりの人たちが体をゆすってリズムを取っているが、見ている私たちもついついそれにつられてしまいそうな気持ちになる。そして、その毎回ほとんど同じイントロのリズムの間の抜けた感じがまたいいのである。
  映画の途中では、骨董狂いの殿様(ディック・ミネ)が家臣たちの伴奏で歌うが、彼らが持っているのがほら貝やら何やらであるにもかかわらず、トランペットやストリングスの音が聞こえてくるのにはつい噴出してしまう。そんな何でもありの破天荒さがこの映画の最大の魅力である。
  決して名作ではない。7日間で作られただけあってB級といったほうがふさわしく、非常に限られたセットで限られた人数で撮られた映画である。しかし、B級映画らしいパワーがこの映画にはある。

Database参照
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国別・年順: 日本50年代以前

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