キング・コング
2007/4/27
King Kong
1933年,アメリカ,100分
- 監督
- メリアン・C・クーパー
- アーネスト・B・シュードサック
- 原作
- エドガー・ウォレス
- 脚本
- ジェームズ・アシュモア・クリールマン
- ルース・ローズ
- 撮影
- エドワード・リンデン
- ヴァーノン・ウォーカー
- J・O・テイラー
- 音楽
- マックス・スタイナー
- 出演
- フェイ・レイ
- ロバート・アームストロング
- ブルース・キャスボット
- フランク・ライチャー
- サム・ハーディ
冒険映画監督のカール・デラムは新作映画のための主演女優を探していたが、見つからず、自ら街に出て生活に困っていた美女アンを見つける。外洋に出たところで彼が船員たちに告げた行き先は地図にも載っていないキング・コング伝説のある島だった…
世界の怪獣映画の原点であり、特撮映画の古典のひとつでもある名作。単に歴史的な名作というだけでなく、今見てもサスペンス的な要素にも優れ、心理描写も巧み、特撮技術には隔世の感はあるが、これぞまさに原点という感慨もある。
『キング・コング』の印象というとやはり拙い特撮と、エンパイア・ステート・ビルに上るキング・コングの絵(ポスター)であり、今見てどうなのかという懸念は隠せないだろう。
しかし、実際見て見るとこれは単に怪獣映画というだけではない。特に前半はサスペンス的な面白さに満ちている。デラム一行が濃い霧の中を公開するシーンの緊迫感、島に上陸して先住民たちを発見し、その儀式を見るときのスリル(ここの音楽がまたいい)、そして先住民との関係がどうなって行くのかという展開、それらはまさに娯楽映画らしい楽しさに溢れている。
そしてそのままの勢いでコングが登場し、そのキングの森に入るとなぜか恐竜まで登場する。ここからの展開はまあ大体予想がつくわけだが、ただコングとアンの関係がどうなるのかはなかなか予想がつきにくくて面白い。結局コングの意図とは何なのか、そこに興味が行く。
しかし、コングをニューヨークにつれてきてからの展開は今ひとつ尻すぼみな印象はぬぐえない。島では巨大だったコングも巨大な都市ニューヨークに来てしまえばそれほど巨大な存在でもない。エンパイア・ステート・ビルを上るコングはポスターの印象と比べるとちっぽけなものにしか見えない。勝手にゴジラ規模の大きさを想像していただからだろうけれど、破壊者というよりは何かから逃げ伸びようとしている生き物にしか見えないのだ。それは恐竜に追われた船員のひとりが木に登って逃げようとしていたのと同じく、高いところに行くことで何かから逃れられると考えたかのように見える。
そんな印象からもわかるように、このキング・コングからはちっとも恐怖を感じない。最初に死んだ船員たちは追っ手を振り払おうとしたコングによって殺されたわけだが、コングに殺そうという意図があったとは思えない。村に入ってからは怒りに駆られて、なぜか人を口にくわえ(食べるわけではない)、踏み潰し、建物を破壊するが、それはアンを取り戻すための行為にも見える。
この島の人々とコングと生贄の関係とは一体どのようなものなのか。私が思うに、コングは村にとってはある種の守り神なのではないだろうか。壁によって閉じ込められた森にはコング以外にも恐ろしい生き物がたくさんいる。コングは村人にとって恐怖の対象というよりは、それらの生き物が村に入ってくるのを食い止めてくれる“味方”なのではないだろうか。村人はその守り神への貢物として“花嫁”を捧げる。“花嫁”は生贄ではなく、贈り物なのだ。
その贈り物を奪われれば神も怒る。コングが暴れ、村を襲ったのは、“花嫁”を捧げることを嫌がって誘拐してきた女性を捧げた村人たちへの天罰なのだ。つまり、この物語(の前半部)は神話なのであり、神と人との関係を描いた物語なのだと私は思うのだ。
そして、それと平行するように先進社会と未開社会の関係の物語が展開される。コングはもちろん未開社会の象徴であり、先進社会の人々が未開社会の未知のものに対して抱く恐怖の象徴である。彼らはその恐怖を逆に恐怖を与えることによって制圧し(デラムがコングを「恐怖によって手なずける」といってのは非常に印象的だ)、その恐怖の源泉を見世物にすることによって克服するのだ。
それは現代の神話であり、ハリウッド映画で際限なく繰り返されるモチーフである。この作品は都市につれてこられたコングの無力さをわずかならが描くことで、疑問符を付けはするが、結局その構図をひっくり返すことはしない。
この映画の後味がどうもあまりよくないのは、そのせいかもしれない。恐怖を恐怖と割り切ってすっきりと終わることもなく、かといって恐怖が生み出す構図を批判するわけでもない。見る人によって解釈も印象も変わってくる、そんな終わりかただ。
ピーター・ジャクソンのリメイク版もちょっと見てみたい。
追記:見ました!おもしろい!