泣き笑い地獄極楽
2007/5/10
1955年,日本,57分
- 監督
- 濱野信彦
- 原案
- 村野鉄太郎
- 脚本
- 高橋二三
- 撮影
- 高橋通夫
- 音楽
- 大久保徳二郎
- 出演
- 船越英二
- 伏見和子
- 藤田佳子
- 品川隆二
- 霧立のぼる
- 古今亭志ん生
ひょっとこ踊りが評判の若い落語家三升は師匠の金橋に気に入られて師匠の家に住み込み、ゆくゆくは娘の雪子を嫁にとらせて金橋の名を継がせようと見込まれていた。三升のほうも雪子に惚れていたのだが、そこに師匠の恩人の息子の品川が下宿することになり…
船越英二が落語家を演じた落語のような話。名人志ん生が『銀座カンカン娘』に続いて2作目の映画出演。ちなみに、寄席で三升が踊る「あやつり踊り」の吹き替えは名人の雷門助六(先代)だとか。
映画としては、というか物語としてはよくある話だ。主人公が落語家というだけで、師匠とか社長とかが見込みある若者を自分の娘の嫁にしてあとを継がせようとするが、娘には他に好きな男が出来、若者のほうに岡惚れしている女もいる。そしてすったもんだという展開。
しかもこの映画は1時間弱と非常に短い。その間に複雑な展開を仕込んだり、あっと驚くどんでん返しを組み込むなんてことは到底無理だ。だから、シンプルな物語として見るのがいい。よくある話だけれど、よくある話というのにもどこか魅力がある。何度もくり返し描かれるということは、そこに原物語的な魅力があるのである。
このよくある物語も、その舞台を変えることで微妙にその意味合いが変化し、展開も変わってくる。この映画のように舞台を落語家などの芸人にした場合、その芸人の出世は師匠の思惑だけではうまく行かず、実力が伴わねばならないし、そのためには修行も必要だ。この主人公の三升は雪子に惚れてしまったことで芸がおざなりになり、出世も危ぶまれてしまう。そこをうまく使ってもう少し物語を膨らませると面白くなったのではないだろうか。
だが、この作品の面白さはその物語にあるわけではない。まずは寄席に出た三升が披露する“ひょっとこ踊り”、操り人形のような動きを見せるこの踊りがやけにうまいから吹き替えに違いないと思って調べて見ると、吹き替えは“あやつり踊り”の名人、8代目雷門助六だという。この雷門助六というひとは落語家だが、喜劇役者としても活躍しており、一時期は吉本新喜劇の座長でもあったという人で、「あやつり踊り」「かっぽれ」といった寄席芸を確立した人物だという。91年に亡くなり、現在は弟子の9代目雷門助六が名跡を継いでいる。この人も“あやつり踊り”の名手だというから、是非見てみたいものだ。
他にも大神楽や漫才(英二・喜美江)も登場し、昔の寄席のファンにはたまらない出演者ということである。残念なのは志ん生の高座が披露されていないことだ。志ん生は『銀座カンカン娘』では落語を噺すシーンがあるのだが、この作品ではなし、演技のほうも決してうまいとは言えず、志ん生目当てに見るのは少しどうかという感じはする。
しかし、今から50年前の寄席の雰囲気を味わうにはいい作品だ。映画に登場する小屋の雰囲気は新宿の末広亭に似ている。当時の小屋がこんな感じだったとすれば、末広亭はかなり当時の趣を残しているということだろう。