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あなたになら言える秘密のこと

★★★.5-

2007/5/14
La Vida Secreta de Las Palabras
2005年,スペイン,114分

監督
イザベル・コイシェ
脚本
イザベル・コイシェ
撮影
ジャン=クロード・ラリュー
出演
サラ・ポーリー
ティム・ロビンス
ハビエル・カマラ
エディ・マーサン
スティーヴン・マッキントッシュ
ジュリー・クリスティ
preview
 とある工場で孤独に働く難聴の女性ハンナは働きすぎといわれ、1ヶ月の休暇をとらされる。何の当てもなく海中油田が見える街に宿をとった彼女は、油田で看護士を必要としていることを聞き志願、そこで一時的に視力を失ったジョゼフの看病にあたる…
  『死ぬまでにしたい10のこと』のイザベル・コイシェとサラ・ポーリーが再びコンビを組んだ力作。前作よりもさらに骨太のドラマで考えさせられる。
review

 まえの『死ぬまでにしたい10のこと』も佳作だったが、この作品もなかなかの佳作という印象だった。前作でも散漫というか焦点の定まらない印象があり、逆にそれが面白さを生んでいたのだが、この作品でも油田にいる7人の人々のそれぞれの物語は散漫で、決して収斂しようとしない。しかしそれでもその一人一人の物語は興味深いものだ。所長(?)の含蓄のある語り、男同士の一瞬のキス、バスケと貝に執心する研究者が隠し撮ったハンナの写真、毎日違う地名の書かれた服を身にまとうシェフ、表には表れて来ない彼らの人生の物語の厚みがこの作品を魅力的にしているのだ。
  そして、主人公ふたりについてもなかなか人生の物語は表に表れてこず、ぎこちなさが漂ったまま物語は進む。それは語られない物語、あるいは語りえない物語の塊という空洞の上に浮かぶ桟橋のように危ういバランスを何とか保って進んで行く。しかし、その桟橋の突端から先をのぞくと、そこには真っ黒な大洋があるのではなく、黒く醜い岩塊がどっしりと存在していた。
  物語は散漫なまま終わるのではなく、主人公ハンナの人生に収斂する。それは劇的な展開というよりは、重苦しく、下腹部にドシンと来るような展開だ。その岩塊は醜くいびつで目を背けたくなるものだが、人間の罪を刻み込んだ決して眼を背けてはいけない記念碑なのだ。
  ついつい比喩ばかりで語ってしまったが、ストレートに語ることはこの作品がやっているのだから、私がそれを重ねてやる必要はない。もしこの比喩の意味を知りたければ是非映画を見て欲しいし、そうすれば、自分なりのイメージというものを生み出せるだろう。
  簡単に行ってしまえば、この映画は生と死と記憶の物語だ。このイザベル・コイシェという監督は常に“死”を見つめているのかもしれない。“死”を見つめて初めて生の意味が見えてくるし、そのために大切なのが記憶である。「再生」や「再出発」という事は簡単だが、一つの記憶を乗り越えて、新たな生に臨むというのはこの上なく困難なことだ。それは時には死のほうが容易に感じられる。しかしそれでも人はそれを乗り越える。そのことを見つめるとき、人は本当に生の意味を知ることが出来るのかもしれない。
  そして、その時に重要なのは、その記憶の中だけに生きる人々の生を奪ってはならないということだ。彼らの生への執心を生きる力にして初めて、その記憶を乗り越えることが出来るのだから。

 それにしても、サラ・ポーリーはすごいと思う。20代にしてこれだけの演技力と、ポリシーを身に着け、それを映画という舞台で生かしている。今ヨーロッパを中心に続々と封切られている初監督長編も是非見てみたいものだ(アメリカでは限定公開にとどまっているというのも彼女らしいが、日本での公開はまだ未定)。

Database参照
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国別・年順: スペイン

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