更新情報
上映中作品
もっと見る
データベース
 
現在の特集
サイト内検索
メルマガ登録・解除
 
関連商品
ベストセラー

さくらん

★.5---

2007/7/17
2007年,日本,111分

監督
蜷川実花
原作
安野モヨコ
脚本
タナダユキ
撮影
石坂拓郎
音楽
椎名林檎
出演
土屋アンナ
安藤政信
椎名桔平
成宮寛貴
木村佳乃
菅野美穂
永瀬正敏
夏木マリ
石橋蓮司
preview
 吉原へと8歳で売られてきた少女はきよ葉と名づけられ、売れっ子花魁粧ひにつけられる。最初は反発していたきよ葉だが、粧ひの手練手管で一流の花魁になることを目指すようになる。そして、17歳となったきよ葉はその美貌と手練手管で江戸中の人気を集めるようになる…
  写真家・蜷川実花が安野モヨコの同名コミックを映画化。タナダユキ、椎名林檎という一流の女性アーティストと協働し、女性の生き様を描いた。
review

 強烈な色彩と椎名林檎の楽曲が観るものを惹きつける。そして、土屋アンナがいいが、それ以外は特に見るものはないかもしれない。
  なんといっても印象的なのは、宣伝やポスターにも登場した色彩のインパクトで、それは映画本編にももちろん生かされている。見る前のイメージでは鈴木清順並の気が違いそうなほどの色の氾濫を予想していたのだが、そこまですごくはなく、どちらかというとインパクトのある色を重ねたという程度のものだ。それでもその色彩のイメージが強くなるのは、平面的な画面構成にあると思う。いくら強烈な色彩であっても、それが奥行きのある画面の中にあると、印象が薄められるものだが、この作品では重要な場面(きよ葉の女郎としての登場シーンや、布団に横たわるシーン)では奥行きを完全に消し去って平面的にすることで、その色に強烈な印象を与えることに成功している。このあたりはさすがは写真家というところだろう。
  そこは写真家としてのセンスが生かされた部分だが、逆に写真家であるがゆえにマイナスになってしまった部分もある。それは、この作品は人やものをその動きの中で捉えるのではなく、静止したものや人に対してカメラが動くことでそれらを捕らえているという点だ。このやり方はイメージ通りの画が作れる反面、単調で退屈にもなりがちだ。アート系映画といわれるものにはこのような作品が多く、それが成功するのは画面の退屈さを補う物語や哲学がある場合だが、この作品にはそれが欠けていると思う。

 椎名林檎の音楽はこの世界観にピタリとはまってすばらしい。しかし、時に音楽が勝ってしまい、この映画が音楽のプロモーションビデオであるかのような印象を与えることもある。たとえば、花魁となり、日暮となったきよ葉が道中をするシーンなどは、完全に音楽が買ってしまい、このシーンが映画の中でどのような意味を持つのかをまったく語りかけてこない。このシーンは映画のほかのシーンから遊離し、ある種のインターミッションであるかのような印象すら与える。江戸時代にはありえないであろう豹柄の帯もその印象を強める。
  この椎名林檎の音楽性を突き詰めていって音楽映画にしてしまう(江戸の吉原という舞台設定にパンキッシュな音楽という組み合わせの音楽映画は面白かったかもしれない)という選択肢もあっただろうが、そういう作品になっているわけでもない。
  土屋アンナは素晴らしい。ここではエキセントリックな女郎としての面と素朴な田舎娘とでもいうべき面の二面性を表現しているわけだが、そのどちらもが非常にナチュラルで演技らしくないのだ。その二つの面はそれは基本的にメイクによって区別されており、しかもどちらも彼女の地なのではないかと思わせるところがあり、演技なのかどうかわからないのだが、彼女がこのきよ葉/日暮というキャラクターを見事に演じきっていることは確かだ。『下妻物語』でも演技だか地だかわからないところがすごかったわけだが、今回はそれがさらにパワーアップしたという印象だ。この作品には本当にたくさんの役者が登場しているが、その誰よりも彼女が光っている。
  土屋アンナが女優として才能があるのかどうかはよくわからないが、23歳にして実生活でもさまざまな経験をしている彼女は女優としても経験をつめば、もしかしたら何年か後には名優となっているかもしれないとも思う。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本90年代以降

ホーム | このサイトについて | 原稿依頼 | 広告掲載 | お問い合わせ