ネコのミヌース
2007/9/16
Minoes
2001年,オランダ,83分
- 監督
- フィンセント・バル
- 原作
- アニー・M・G・シュミット
- 脚本
- フィンセント・バル
- バーニー・ボス
- タマラ・ボス
- 撮影
- ウォルター・ヴァン・デン・エンデ
- 音楽
- ピーター・ヴェルマーシュ
- 出演
- カリス・ファン・ハウテン
- テオ・マーセン
- サラ・バンニール
- ハンス・ケスティング
- ピエール・ボクマ
突然人間になってしまった猫のミヌースは困り果てて屋根をさまよう。新聞記者のティベはなかなかいい記事が書けず、クビ寸前。いつものようにパソコンに向かうがなかなか記事がかけないと思って台所に行くと、そこに女性が。その女性こそミヌースで彼女からティベは噂話を聞いてついに特ダネをものにする…
オランダを代表する児童文学作家アニー・M・G・シュミットの同名小説の映画化。オランダで大ヒットし、日本でも劇場公開された。子供だけでなく、大人も楽しめる良質のファンタジー。
これはなかなか面白い。子供はもちろん楽しいけれど、大人でも十分に楽しめる。基本的にはファンタジー/御伽噺なんだけれど、子供だましではなくドラマとして成立しているからいいのだろう。
まあ、設定はステレオタイプというか、どこかで聞いたようなものだ。ファンタジーという面では猫が何かの拍子に人間になる。人間ではないものが人間になって、そこから物語が展開されるというのはファンタジーではよくあるパターンだ。そして、その人間らしからぬ行動が笑いを誘うというのもよくある。でも、それもうまく使えばやはり面白くなるのだ。ミヌースはとにかく屋根をうろうろし、魚には目がなく、昼ま出歩くのは嫌がる。夜は段ボール箱の中で寝て、脅かされると突然引っかく。この手の物語というのは、その主人公が急速に人間化していくものだけれど、このミヌースはいつまでたっても猫らしく、なかなか人間ぽくなって行かない。ここも面白さなのだろう。
そして、脇役として子供と、善人ぶった顔をした悪役が登場。これもひとつのパターンとして何度も繰り返されているものだ。
見たことあるような話なのに楽しめるというのは、その話にどこかリアリティがあるということなのだろう。意欲はあるが、引っ込み思案でなかなかうまくいかないティベは誰もが思い当たる節のあるキャラクターなのではないか。もちろん、なんでもとにかくがんがん行くタイプの人もいるが、そんな大人はこんなファンタジーを見ようとは思わないはずだ。子供の付き合いにしろ、自分から率先してみるにしろ、こんなファンタジーを見るような大人はどこか子供っぽさを引きずっていて、それがティベに呼応するのだろう。
ミヌースもそうだ。ミヌースの場合は猫っぽさだが、その猫っぽい振る舞いは子供っぽさにもつながる。大人になりきれない未熟な感じがティベにもミヌースにもあるというわけだ。だから大人になりきれないオトナの観客達の心にこの作品はすとんと落ちる。なんだか、和むし面白い、そんな感覚で見ることができて、見終わった後も幸せな気分になるのだ。
そして、それはリアリティがあると同時に、単純化されているということでもあるだろう。主人公が子供と猫の手を借りて、悪人を懲らしめる。悪人は悪人で善人は善人、そして悪役以外はみな善人というこの設定は、人間同士の関係が複雑になりすぎている現代社会からみると、単純すぎるが、そのような単純なものは予見が可能で、人間を安心させるのだ。それを御伽噺という。子供が同じ御伽噺を何度も読んでくれせがむのは、その結末がいつも同じで安心して聞けるからだという。つまり、ほとんどすべてが未知の出来事である世界の中で、予見が可能だという安心を得られるのが御伽噺の世界だということなのだ。だから、大人は子供が飽きるんじゃないかといって勝手に結末を変えたりしてはいけない。それでは子供の楽しみをすっかり奪ってしまうことになるのだ。
大人の場合はもう少し複雑で、まったく同じ話だとやはり飽きてしまう。でも予見が可能で安心していられる世界というのを現実に疲れた大人は求めているのだ。映画の御伽噺というのはワンパターンの筋書きでそれを満たしてくれる。しかも、細かな展開は異なるから、それぞれの物語を新しいものとして楽しむことができるのだ。
この作品はそんな大人の御伽噺としてかなり優秀な作品だ。かなり単純化されていて猫の社会のほうが複雑に見えるくらいなのだが、ティベを中心に、ミヌースやビビとの関係に紆余曲折があり、それが“世間”との関係に絡んで面白い展開を見せるのだ。
それに、ミヌースという“猫人間”もなかなか面白い。ミヌースを演じたカリス・ファン・ハウテンはこの作品で評価されて、オランダを代表する女優のひとりとなった。ポール・ヴァーホーヴェンがオランダに帰って撮った『ブラックブック』でも主演をつとめ、存在感を示した。オランダ人の女優というとファムケ・ヤンセンくらいしか知らないが、カリス・ファン・ハウテンは彼女を越えるくらいの活躍をするかもしれない。