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再会の街で

★★★★-

2007/10/19
Reign Over Me
2007年,アメリカ,124分

監督
マイク・バインダー
脚本
マイク・バインダー
撮影
ラス・アルソブルック
音楽
ロルフ・ケント
出演
アダム・サンドラー
ドン・チードル
ジェイダ・ピンケット=スミス
リヴ・タイラー
ドナルド・サザーランド
マイク・バインダー
preview
 ニューヨークで歯科医を開業しているアラン・ジョンソンは街でしばらく音信普通だった大学時代のルーム・メイトのチャールズを見かけるが、気づいてもらえなかった。実は彼は9.11で家族をいっぺんに亡くしていたのだ。またすぐにチャールズを見かけたアランは彼に声をかけるが、彼はアランのことを覚えていなかった…
  9.11事件が人々に残した衝撃をPTSDを題材として描いたヒューマン・ドラマ。アダム・サンドラーがシリアスな役を熱演し、見ごたえのある作品に仕上がっている。
review

 アダム・サンドラーとドン・チードル、このふたりの存在感が何よりすごい。特にアダム・サンドラーは演技派にもなりうるところを見せ、また同時にいわゆる“プッツン”してしまった男の一面をエキセントリックな行動によって表現するときにはコメディアンとしての才能を発揮している。エキセントリックな彼の行動はその真意を考えれば笑えるようなものではないはずなのだけれど、アダム・サンドラーという役者が演じることによってそれは心から笑える行動になるのだ。
  アダム・サンドラーはこのところ喜劇役者から性格俳優へと脱皮しようとしているように見える。その萌芽は『パンチドランク・ラブ』のあたりからあったが、このところの『スパングリッシュ 太陽の国から来たママのこと』『もしも昨日が選べたら』という作品でその傾向は顕著になってきている。そして、この『再会の街で』では作品自体がもはやコメディではないという点でさらに一歩進んだという気がする。しかもこの作品は本当にすばらしい作品であり、「9.11」や「PTSD」というホットなトピックもあってオスカーを取ってもおかしくないような作品にもなっている。この作品でアダム・サンドラーがアカデミー主演男優賞でも取るようなことになったら。彼は一気に演技派としての地位を確立するだろう。そうなれば、最近人気も翳りがちなトム・ハンクスに変わってアカデミー賞の常連となることも… などということすら考えさせるほどにこの作品のアダム・サンドラーは存在感がある。
  もちろん、9.11の被害者の家族という設定はわかりやすいものであり、その人物像というのも作りやすかったという面もあるかもしれない。しかし、その人物は家族を失ったショックでPTSDにかかり、記憶を下意識の淵へと沈めた人物なのだ。そのような人物をリアリティをもって演じることが難しいことであることは間違いない。この役を演じたアダム・サンドラーにはどこか『レインマン』のダスティン・ホフマンや『カッコーの巣の上で』のジャック・ニコルソンを髣髴とさせるものすらあったように私には思えた。

 物語のほうもなかなかうまい出来だ。展開としてはドン・チードル演じるアランがアダム・サンドラー演じるチャールズに救いの手を差し伸べるというところから始まるわけだが、その実、助けを求めているのはアランのほうなのだ。妻との関係、仕事、彼自身も周囲もそこに問題があるとは思っていないのだが、彼は行き詰まっており、それが彼にチャールズを求めさせたのだ。
  アランが悩める男であるということはリヴ・タイラー演じる精神科医アンジェラの存在によってあらかじめ明らかになっている。アラン自身は精神科医にかかるほどではないからアンジェラとの世間話で解を見つけようとするのだが、それこそが彼がセラピーを必要としている何よりの証拠だ。彼はチャールズに出会い、彼を救いたいために彼と一緒にいるのだと妻に言うが、彼は妻からも仕事からも逃げられる出口をチャールズに見出したのだ。
  この見た目とは逆の関係というのがこの作品を非常に面白くしている。そしてアンジェラとアランの妻ジャニーンがそれを支え、行き詰まったふたりの内面に変化をもたらしていくのだ。だから、それほど意外な展開というものはないにもかかわらず、目が話せない。そこにはそれぞれの登場人物の内面、それぞれの関係、という小さな物語がたくさん盛り込まれているからだ。人は人との関係によって絶望に沈むこともあれば救われることもある。そんなことをこの物語は語っているのではないか。
  そして同時に人間が苦しめあうのは相手の気持ちを想像できない(あるいはしようとしない)からだということもこの作品は言っている。そのことを言うためにドナという物語とは一見無関係な人物を登場させた。このドナの存在もこの映画のひとつの肝であると私は思う。

 9.11という題材によって注目されることは仕方のないことだが、ここで語られている物語は9.11という特別な事件のみに当てはまることではない。絶望的な経験をした男と日常に行き詰まった男が出会い、経験を分かち合う。絶望的な経験というのはなかなかすることはないしできればしたくないことだけれど、想像するのは難しいことではない。そして日常に行き詰まるというのは誰しもが経験しうることである。スクーターにまたがって夜の街を失踪するふたりの男の姿に挟まれたこの作品は私達の誰もが経験するかもしれない精神的な危機を描いた物語なのだと思う。
  この物語によって主人公のふたりが本当に救われ、あるいは解放されたかどうかはわからない。しかし、どん底まで行けば物事は必ずよい方向に進む、そんな希望を私達に見せてくるのだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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