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ベストセラー

ホテル・ワルツ

★★★.5-

2007/10/27
Valzer
2007年,イタリア,85分

監督
サルバトーレ・マイラ
脚本
サルバトーレ・マイラ
撮影
マウリツィオ・カルヴェージ
音楽
ニコラ・カンポグランデ
出演
ヴァレリア・ソラリーノ
マウリッツィオ・ミケリ
マリーナ・ロッコ
グラツィアーノ・ピアッツア
エウジェニオ・アレグリ
preview
 ナポリのとあるホテル、今日が最終日のメイドのアスンタのところに初老の男が尋ねてくる。その男が「ルシアの父親だ」というとアスンタはショックを受けた様子を見せる。アスンタが食事を運んだスイートでは、サッカーチームのオーナーと次期監督の間で密約が交わされる…
  あるホテルでの1時間半の出来事を全編1カットで撮ったイタリアの俊英サルバトーレ・マイラの意欲作。技術におぼれることなく深みのあるドラマを作り上げた。
review

 1カット90分のこの作品は、ひとつのホテルでの出来事をリアルタイムで追いながら、そこに過去の時間を滑り込ませていく。カメラはホテルの中を被写体と時間を変化させながら流れるように移動する。そのカメラの動きがまるでワルツのように滑らかだから、こんな題名がつけられたのかと思う。
  物語の骨格を成すのは主人公のアスンタと友達のルシアの父との会話である。その会話から少しずつ明らかになっていく秘密が過去を解き明かし、その過去の再現がカットをきらないまま現在の時間に滑り込んでくる。そこにこの作品が1カットで撮られた理由があるのだろう。過去を現実と断絶した時間としてではなく現在と連続した時間として捕らえること、この場所を離れようとしているアスンタにとって今日は過去と決別すべき日なのかもしれない。そこにルシアの父親が現れることで、決定的な一日が訪れるのだ。
  そして、この1カットという制作手段は別の効果も生む。絶えずカメラに導かれながら空間を移動する観客は用意にカメラと一体化する。これはカット割によって構成される映像が、そこに一定の空間を作り出すのとはまったく対照的な効果だ。観客は、さまざまな視点から、今描かれている場所を頭の中で構築するのではなく、一個の“目”となって空間と時間を自由に旅する。そこに生まれるのは空間ではなく移動である。このダイナミズムこそこの作品の狙いであり、最大の面白さだ。

 ここで語られる物語はそれなりに面白いが、それ自体はそれほど奇抜なものでも、強いメッセージを持つようなものでもない。サッカーにかかわる一連のシーンなどは、一体何が言いたいのかよくわからなくもある。それにもかかわらずこの作品は一気に見れてしまう面白さがある。それはやはりこの作品にスピード感があるからだ。この1作品1カットという仕掛けはテーマパークの乗り物のようにそれ自体がひとつのエンターテインメントなのだと私は思う。もちろん、その乗り物にはさまざまな意味を込められるし、メッセージを載せられる。しかし、それがなくともただ乗るだけで楽しめてしまうのだ。作り物だからもちろんあちこちにほころびが見えることもあるけれど、ある種、非日常のその体験は体験自体で面白いものなのだ。
  この作品が本当に1カットかどうかは疑問がないわけでもないが(カメラが柱を通過したときにカットを割るのが可能な瞬間はあった)、確実に1カットのシーンの中での早変わりや場面転換の面白さは十分に楽しめる。1作品1カットの映画といえばソクーロフの『エルミタージュ幻想』が思い出される。この作品はコスチュームプレイで数多くの出演者、エキストラが登場し、1カットで歴史を描いていた。この作品も面白かったが、この『ワルツ』にもそれとはまた違った面白さがあると思う。

 最後に一応、物語にも触れておく。この作品は一人の女性の人生にとって重要なある一日を描いた物語だ。偽りの手紙と偽りの自分、それを見つめなおすことによって、本当の自分、偽り続けていた自分の本当の姿を見つめなおすことが物語の核になっている。未来への一歩が踏み出せなかった主人公が、決断の日を迎え、そこで様々な驚きや失望を経験する。その中で何かが変わっていく。それはすごくリアルで面白いと思う。
  どうしても1カットという技術的なほうに目がいきがちだが、一人の女性の現実と記憶を捕らえることで、彼女が考え決断する90分を描いた作品としても十分に面白いものだと思う。

Database参照
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監督順: 
国別・年順: イタリア

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